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ぼくは、それからずーっと、耕ちゃんのことを気にしていた。耕ちゃんは、一日休んだきりその後は、休みたいとは言わなくなっていた。
ぼくは、耕ちゃんに、 「園で大丈夫なの?耕ちゃん、楽しい?仲間はずれになっていない?」 と、何度も訊いた、 「なってない。平気だよ」 と、耕ちゃんは言い続けた。そして、 「母さん、いつ旅行に連れてってくれるかなぁ。お兄ちゃん、どこ行きたい?」 と、言った。ぼくは、きっと旅行は、行けないかもしれないと思っていた。耕ちゃんは、かわいそうなぐらい、旅行を楽しみにしている。母さんと一緒に出かけたいんだ。 「ぼく、どこでもいいよ。行かなくたっていいし、さ。母さんが夏休み取れるんなら、それだけでいいんだ」 「ぼくは、やだ。どっか、行きたい!でも、お家に帰るんなら、行かなくてもいいよ」 「お家って?お家って何、何?」 「大泉のお家だよ。決まってるじゃなーい」 「耕ちゃん、お家はここだよ。このアパートなんだよ。何言ってるの?」 「ここは、ぼくたちのお家じゃないよっ。大泉のお家に帰りたいっ」 「耕ちゃん。大泉はね、社宅だったんだよ。父さんがいなくなったから、もう、ぼくたちはあの家には戻れないんだ。ぼくだって戻れるんなら、戻りたいっ。ぼくたちの家はもう、ここしかないんだよ」 「ぼくのお家はここじゃないよう」 「ここなのっ、耕ちゃん!」 「ここは、ホントのお家じゃない!ぼくは、ホントのお家に帰りたいよう。大泉のお家に帰りたいよう」 ぼくは、耕ちゃんの気持ちをのぞいた気がした。そうだったんだ。耕ちゃんは、そう思っていたんだ。 「耕ちゃん。耕ちゃん。大泉の家、大好きだった?」 「大好きだよ。きっくんとも遊べたし。ぼく、きっクンと遊びたい。園で遊べる人、ぼく、いないんだもん」 やっぱりだ、とぼくは思った。心配してた通りになってる。ぼくは、何だか、とても悔しかった。 「耕ちゃん、仲間はずれなの?ねえ、耕ちゃん?」 「仲間はずれじゃないよ。でも、遊ぶ人がいないの」 仲間はずれじゃないのに、遊ぶ人がいないって、どういうことなのだろう。 ぼくは、友だちを作ろうと思っていないから、できない。でも、耕ちゃんは作ろうと思っているのに、できないのかもしれない。耕ちゃんは、できあがってしまっている輪の中に入って行けないのだろうか。 母さんは、何日か前に、園に寄ってから会社に行った。耕ちゃんのことで、園から来てくださいと言われていた。何て言われたのか、ぼくは聞いてなかった。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 17, 2006 02:11:18 PM
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