Christoph T. Maier, Crusade Propaganda and Ideology. Model Sermons for the Preaching of the Cross
Christoph T. Maier, Crusade Propaganda and Ideology. Model Sermons for the Preaching of the Cross, Cambridge, Cambridge University Press, 2000 著者のマイヤーはスイス出身の歴史家。本書に先立ち、1994年に博士論文を基に出版された著作として、Christoph T. Maier, Preaching the Crusades. Mendicant Friars and the Cross in the Thirteenth Century, Cambridge University Press, 1998 [paperback edition]があります。(→『西洋史学』192、1998年、70-74頁に櫻井康人先生による明解な紹介あり。) 前著が十字軍説教における托鉢修道士の役割を分析する研究であったのに対して、本書は説教史料そのものに重点を置き、その特徴を分析するとともに、主要な史料のラテン語校訂版と英訳の対訳を提示してくれる、きわめて重要な1冊です。 本書の構成は次のとおりです(拙訳)。―――謝辞略号一覧第1部 第1章 著者、説教、その文脈 第2章 十字軍説教と十字軍範例説教 第3章 テクストとその構造 第4章 十字軍を描く第2部 第5章 トランスクリプション及び翻訳に関する注記 第6章 写本 第7章 説教補論 ギベール・ド・トゥルネーとジャック・ド・ヴィトリの十字軍範例説教間の関係参考文献聖書引用箇所索引一般索引――― 第1章は、本書が対象とする説教史料の著者5名とその著作の紹介、そして説教史料全般の研究史概観と本書の構成紹介からなります。 5名は、晩年トゥスクルムの司教枢機卿をつとめたジャック・ド・ヴィトリ(1160/70-1240)、その後任となったウード・ド・シャトルー(c.1190-1273)、フランシスコ会士ギベール・ド・トゥルネー(c.1200-1284)、ドミニコ会士アンベール・ド・ロマン(c.1200-1277)、フランシスコ会士で晩年はトゥスクルム司教枢機卿をつとめたベルトラン・ド・ラ・トゥール(c.1265-?)で、彼らはみな、十字軍士に向けた範例説教を著しています。 第2章は、著者たち自身の十字軍の経験とその説教との関係、「生の」説教と範例説教の関係について論じます。 第3章は、説教の構造に関する分析です。説教の出発点となる「主題」(一般に聖書の一節からとられる)から始まり、説教を展開する技法(動物等になぞらえる「類似」や、聖書の言葉の多義的な意味を読み解く「語釈」など)について具体的に分析します。 第4章は、説教テクストにおいて、十字軍(士)がどのように描かれたかを論じます。戦争としての側面や、キリストの模倣、死との関係などが取り上げられます。 第2部は本書の主要部分で、第5章は標題どおり注記、第6章は写本の紹介、第7章で説教史料の校訂版と英訳の対訳が提示されます。 付録は、ジャックの説教から多くを引用しているギベールの説教について、実際の引用箇所を提示することで、ギベールは単にジャックのテクストを剽窃しているのではなく、自身の議論の出発点としてジャックのテクストを用いているとし、ギベールの独創性を強調しています。 冒頭にも書きましたが、十字軍説教を勉強するにはきわめて重要で、また不可欠の著作と思われます。 学生の頃にだいぶ読んで勉強したつもりでしたが、この度再読してみて、あらためて学びがありました。(2023.12.17再読)・西洋史関連(洋書)一覧へ