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2005.08.29
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ホームタウン
小路幸也『ホームタウン』
~幻冬舎~

 人殺しの血が流れているから―。僕、行島柾人は、中学生の頃、両親を失った。妹とともに、カクさんのもとでしばらくお世話になった。
 北海道最大の百貨店<三国屋>の<特別室>部長として、柾人は「監査」を行っている。自分の仕事のせいで、人生がめちゃくちゃになる人々もいる…。彼はそれを割り切って、仕事をしていた。現在は、自分のせいで息子夫婦を失ったおばあさんと、その孫娘と一緒に住んでいる。おばあさんは事情を知っているけれど、柾人を支えてくれている。
 ある日。長いこと連絡をとっていなかった妹―木実から、手紙が届いた。結婚が決まったという。しかし、それからしばらくして、木実の同居人、浅川から連絡があった。木実がいなくなったという。ほぼ時を同じくして、木実の婚約者も失踪していた。
 故郷、旭川。二度と戻りたくないと思っていたその場所へ、柾人は戻る。妹と、その婚約者の行方を知るために。

 深く考えはじめると、いろんな人間の嫌な、どす黒い部分が見えてきます。ですが、本作で主に登場する人物は、それが暴力団の幹部クラスの人物であっても、優しさ、暖かさを持っているのです。まず、柾人さんが、草葉さんのことを回想するシーンで、そんなことを考え始めました。世界はやっぱり矛盾に満ちていて、でもそれに目をつむらなければ、多くの人々の生活が壊れてしまう…。さらなる矛盾です。こうして、いかに矛盾と折り合いをつけていくか、それが「大人」なのでしょう。本作で言われている「大人」とは、そういうことができる人だととらえました。大学院生という、なんとも中途半端な立場ですし、うだうだ考えることも多いので、私はまだまだ「大人」ではないと思いますが、少しずつそうなっている気もして。そのよしあしは、この際考えないことにします。矛盾が許せなくてわぁわぁ言っていた時期の自分の方が、まだ今の自分に近いので。
 ともあれ。本作で素敵だなぁと思った人物は、いまも名前を挙げた草葉さんです。自分が死んでも、誰も悲しんでくれる人はいないだろう。でも、誰かが、「あの人は、自分には優しい人だった」って言ってくれることを、望んでいる。素直、というのかな…。とにかく、かっこいいと思いました。もちろん、草葉さんに恨みを持っている人々もいるでしょう。そういう方々の立場から描かれていたら、当然草葉さんへの印象も違ったものになっていたと思います。結局、人は、自分が見ている面だけじゃなくて、いろんな面を持っている。自分がとことん憎いと思っている人間が、誰かにとっては心から慕われている人間かもしれない。理屈では分かっていても、誰かに対するイメージというのは、なかなか変えづらいものです。難しいですね。
 内容を通して感じたことも書いておきましょう。婚約者たちの、謎の失踪。その理由、行方を追っていくうちに、裏で動いている大きな存在が浮かび上がってくる…。これこそがハードボイルド、という作品を読んだことはないと思うのですが、なんだかそういう印象を受ける部分もありました。本作がハードボイルドだとはいいませんが。
 とても悲しい、つらい過去を背負った人々。もっともっと彼らに感情移入すれば、つらいと思うこともあると思います。でも、紆余曲折はあるにせよ、誰もが前向きに生きようとしています。だからでしょうか、やっぱりとても暖かい物語なのです。
 そして、カバーデザイン。素敵です。
 最後に。柾人さんの妹が、木実さんという名前であるために、とても感動的な文になっている一節があります。 237頁です(私の深読みかもしれませんが…)。ちょっと照れますが、この部分の木実を、「君」と置き換えて、私は泣いてしまいました…(他の部分でも泣いたのは言うまでもありませんが)。

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My Recommend Booksからもトラックバックをくださったでこぽんさんの記事はこちらです。
(でこぽんさん、とつぜんにすみません)





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Last updated  2005.08.29 21:28:12
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