カテゴリ:本の感想(な行の作家)
梨木香歩『西の魔女が死んだ』 ~新潮文庫、2001年~ 表題作の長編「西の魔女が死んだ」と、主人公のまいさんの後日譚「渡りの一日」という短編の二編が収録されています。それぞれの内容紹介と感想を。 「西の魔女が死んだ」 魔女が倒れた―学校にまいを迎えにきた母親は、まいにそう告げます。深い衝撃に襲われるまい。彼女は、二年前に魔女=おばあちゃんのところで過ごした日々を思い出します。 * ぜんそくと、学校での事情から、13歳のまいは、学校に行かないと宣言します。英国人と日本人のハーフである母親は、英国人の母―まいにとってのおばあちゃんのところで過ごすことを提案し、まいもそうすることにしました。 山の上で、静かに暮らすおばあちゃんは、自分の家系が魔女の家系だということをまいに告げます。その卓越した、あるいは「一般の」人間には理解できない能力のために目立ち、あるいは迫害される魔女。その話を聞いて、まいは少し、学校での自分の境遇の理由が分かった気がしました。 おばあちゃんのおばあちゃんには、特別な能力があったらしい。自分も魔女になれるのかと聞いたまいに、おばあちゃんは、そのためには修行が必要だといいます。それから、まいの魔女修行がはじまります。 魔女修行といって、魔法や予言を行うといった修行ではありません。その基本は、自分のことは自分で決めること。決めたことを守っていくこと、です。 起床時間、就寝時間、朝は家事をすることで運動に替え(なにしろ洗濯機もないので、洗濯するのだって肉体労働です)、午後は自分で計画した通りに勉強をする。もちろん、ゆっくりできる時間には、自然にふれあい、自分の好きな場所でのんびり過ごす。そんな日々がはじまります。 庭を見てくれる、近所のゲンジさんには嫌悪感しか抱けず、そのことでおばあちゃんと対立してしまうこともあるのですが、まいは少しずつ、学校生活を送ることを前向きに考え始めます。 「渡りの一日」 ある日曜日、まいは親しくなったショウコとサシバの渡りを見に行くことにしていました。ところが、ショウコがすっかり寝坊してしまい。予定はすっかり変わってしまいましたが、偶然に流される、そして素敵な一日となったのでした。 ーーー 本書をはじめて読んだのが、3年ほど前のことだったかと思います。 タイトルからは、なんだかちょっと重そうな話かと考えたのですが、裏表紙の紹介を読んで、気になったのでしたか。 とにかく素敵な物語です。生きている中で出会う、どうしようもない不条理、不安、嫌悪感、あるいは憎悪。けれど、おばあちゃんと過ごすまいは、あれやこれやとしている内に、心が軽くなっていきます。もちろん、心に巣くう不安や、嫌な気持ちが全くなくなってしまうわけではありませんけれど。 就寝時間と起床時間も含めた、一日のスケジュールを自分で決めて、それを着実に実行すること。私は、高校生の頃はそれを実践していたのですが、その後は、どこかなぁなぁになってしまうところが出てきたかなぁと、自分の生活を思い返します。ものすごく不規則な生活をしたことはないのですけれど、明日はこの文献を読もうと考えておきながら、できなかったこともあり。 だからここでまいさんが実践しようとしていること、そして身につけることは、簡単そうでけっこう難しいことです。常に意識していないといけませんから。 もう少し、ここで西の魔女が示してくれる生き方を意識してみようかなぁと思いながら読みました。 おばあちゃんが教えてくれる色々なことも、とても興味深いです。それは、草や花の名前だったり、ジャムの作り方だったり。私には、圧倒的にこうした知識が欠如しているので、このように生活に根付いた知恵というのには憧れます。 表題作の中に、大好きな言葉があります。文字色を反転させて、引用しておきます。 「自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」 併録された「渡りの一日」も、ほのぼのした物語で素敵です。 大好きな一冊です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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