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2007.10.06
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吉敷竹史の肖像
島田荘司『吉敷竹史の肖像』
~KAPPA NOVELS、2002年~

 先日読んだ『光る鶴』のノベルス版です。文庫版は、書き下ろしの短編を追加し、ノベルス版にある対談や事件年表などを取り除いた、純粋な短編集で、それはそれで嬉しかったのですが、ノベルス版の事件年表が気になり、こちらも購入したのでした。
 ここでは、短編以外の部分について、いろいろと書きたいと思うのですが、その前に、本書の構成を掲げておきます(なお、短編については『光る鶴』の記事を御覧ください)。

ーーー
短編「光る鶴」
事件の風景―吉敷竹史の旅
対談―吉敷竹史と「冤罪の構造」(島田荘司vs.山下幸夫)
書き下ろしエッセイと競作イラストレーション―事件の女たち
吉敷竹史シリーズ―ブック・カバーコレクション
吉敷竹史と加納朋子―事件年表
短編「吉敷竹史、十八歳の肖像」
ーーー

 事件の風景は、吉敷さんが事件の中で訪れた名所の写真が紹介されていて、わくわくしました。最初に、北海道の層雲峡の写真があるのですが、まずこれが良かったです。その他、吉敷シリーズでは割と北海道が舞台となっている作品が多く(『北の夕鶴…』『奇想、天を動かす』『涙流れるままに』など)、その分北海道の写真が多いです。北海道は高校の修学旅行で一度行ったきりなので、またいつか行ってみたいものです。

 対談は、とても興味深かったです。『涙流れるままに』「光る鶴」はまさに冤罪事件を扱った吉敷シリーズの作品で、それらを読んだときに考えさせられていたのですが、あらためて、冤罪や死刑制度について考えさせられました。
たとえば、世間的に凶悪犯と思われている事件を担当する弁護士に対する偏見。「今だと和歌山カレー事件。いまだに世間的には『どうしてああいう人を弁護するんだ』という、いまだにそういう偏見がありますね」(242頁)。…反省する部分がありました。
「目には目を」という「原始的」な考え方がいまだに主流だという言葉も、ずきっとしましたね。私にも、そういう考えがありますから。もっとも、島田さんの多くの作品で、追い詰められた末に殺人事件を起こしてしまった犯人像が描かれていて、そうした作品にふれる中で、多少考え方も変わってきたかとは思うのですが…。
 その他、クロ判決を出した裁判官の方が出世しやすいとか、検察側と裁判官側のつながりとか…。その他、自白重視への批判も興味深いですね。「アメリカでは、自白がなくてもすぐ裁判に入りますが、これは自白を重用しすると拷問が行われることがだれの目にもわかるからで、しかし日本では、この簡単なことがなかなか理解されないのですね」(261頁)。そして、自白を強いるための「精神的な拷問」。これらの条件が、冤罪を作り出していくのですね…。
 まさに本書を読了した日(10月4日)、ニュースで、高松高裁が、100km/hを越えて走行していた(?)白バイが停車中(?)のバスにぶつかり警官が亡くなった事件の控訴審で、弁護側が争点となっているバスのブレーキ痕は警察による偽造であるという証拠の調査と証人による証言を求めたのですが、それらを全て斥けたということが報道されていました。白バイは60km/hで走っており、バスは停車中ではなかったという検察側の主張を支持した第一審の判決を支持したかたちといえるでしょう。残念な気持ちになりつつ、島田さんと山下さんの対談の内容を、なるほどなぁと思ったものです。
 近いうちに実施される裁判員制度についても言及されていました。過去、原敬氏が陪審制を実現させ、陪審法という法律もいまだにあるのに、それを無視して、新しく裁判員制度は作られたとか。その理由の一つは、いまの裁判官たちが既存の権限を失いたくないという気持ちもあるとかないとか…。また、アメリカでの陪審制が、社会の浄化装置として機能する部分もあるという指摘もあり、とても興味深かったです。裁判員制度が、かたちだけのものではなく、社会的に有意義なものになればよいのですが…。

 事件の女たちは、吉敷シリーズに登場する主要な女性たちについて、島田さんの書き下ろしエッセイと、イラストレーターさんたちによるイラストを紹介しています。『灰の迷宮』事件の恵美さんも取り上げられていて、あの話を思い出してうるっとなってしまいました。

 吉敷竹史シリーズ―ブック・カバーコレクション。私の記憶がちょっとあやふやなのですが、それこそ本書が出たくらいの時期に、光文社文庫の島田さんの作品の表紙が一新されたのですね。ここでは、その新装版の表紙と、内容紹介(裏表紙の??)が紹介されています。文庫『光る鶴』は、最初から新しい表紙で出たので仕方ないですが、それ以前の作品は、私は全て旧版の表紙で持っているので、かえってこれは嬉しいですね。新しい表紙も好きなときに眺められます(笑)

 楽しみにしていた事件史年表ですが、はっきりできる事件については、日付レベルまで詳しく書かれています。たとえば、一つの短編にしてみても、事件発生の日と解決の日がはっきりと書かれているわけですね。
 吉敷シリーズは、たいてい事件の年月日をはっきり書いているので、以前御手洗シリーズについて作った簡単な事件年表(御手洗シリーズ略年表はこちら)を作ってはいるのですが、『確立2/2の死』は、何年の事件か明記されていなかったはずで、これが気になっていたのでした。本書の年表でそれも分かったので、いずれまた、吉敷シリーズの略年表も記事にしたいと思います。

 短編は文庫版『光る鶴』で読んでいたので除くとして、やはり、対談が読み応えがありました。またいつか、『三浦和義事件』『秋好事件』なども読んでみたいと思っています。





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Last updated  2007.12.12 09:25:03
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