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2017.07.08
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佐藤彰一『贖罪のヨーロッパ―中世修道院の祈りと書物―』
~中公新書、2016年~


 佐藤彰一『禁欲のヨーロッパ―修道院の起源―』の続編です。本書は、おおよそ5世紀から12世紀までの修道院とその社会的背景、修道院での知的活動などを対象としています。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに

第一章 ヨーロッパにおける修道制の萌芽
第二章 ベネディクト戒律の普及
第三章 フランク国家におけるアイルランド修道制の展開
第四章 欲望の克服から魂の贖罪へ
第五章 修道院の経済活動
第六章 筆写による古典作品の保存と写本制作
第七章 学知の研鑽と陶冶
第八章 カロリング朝修道院改革の限界とディアスポラ
第九章 新たな霊性の探求と修道院の革新

おわりに
あとがき
参考文献
事項索引
人名索引
―――

 西洋中世の修道院の歴史に関する有名な概説として、朝倉文市『修道院―禁欲と観想の中世―』(講談社現代新書、1995年)杉崎泰一郎『修道院の歴史―聖アントニオスからイエズス会まで―』(創元社、2015年)が挙げられます。本書がこれらと大きく異なるのは、前2者はクリュニー修道院(修道会)とシトー会、遍歴説教師が設立した修道院それぞれに1章を割いているのに対して、本書では1節ずつしか当てられていません。かわりに本書では、「贖罪」をテーマにしたアイルランド系修道士の影響の大きさ、修道院における写本文化、さらには異民族侵入により修道院がこうむった影響といった話題について、前2者よりも丹念に描いています。

 また本書のなかで特徴的なのは、とにかく最新の研究動向をふまえ、従来受け入れられてきた歴史観・事実に一定の留保を促していることです。特に印象的だったのは、ベネディクト戒律創案者ベネディクトゥスの伝記を伝えるグレゴリウス大教皇『対話』について、『対話』はグレゴリウスが著者ではない可能性があることが指摘され、グレゴリウスの在位期に、ローマではベネディクト戒律が一般には知られていなかったという学説も紹介されていることです。

 その他、興味深かった点のみメモしておきます。

・文字通り肉体の死で完遂する「赤い殉教」、社会からの追放という形式をとる「白い殉教」のほか、巡礼者としての漂白と遍歴は「緑の殉教」と称されたということ。(11頁)

・書物の形態が、巻物からこんにちの冊子のかたちにかわり、目次や索引がつけられるようになったのは書物文化の一大革新ですが、「巻子本から書冊本への転換に際して、以前存在したすべての巻子本が、新たに書冊本の形式として生き残ったわけではなかろう」という負の側面も指摘されます。あわせて、「これと同じような事態が印刷本から電子書籍への全面的転換(もし起こるとすれば)の際にも生ずることが懸念されるのである」との警句が印象的です。(136頁)

 概説的になるので、構成に沿った紹介は省略しますが、単なる概説ではなく、最新の研究動向への言及が豊富で、知的興奮にも満ちた一冊だと思います。

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Last updated  2017.07.08 14:21:03
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