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2018.11.18
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Jussi Hanska, Strategies of Sanity and Survival. Religious Responses to Natural Disasters in the Middle Ages, Finnish Literature Society, Helsinki, 2002.

 

 以前紹介したJussi Hanska, “And the Rich Man also died; and He was buried in Hell” The Social Ethos in Mendicant Sermons, Helsinki, 1997​に続く、ジュシ・ハンスカの単著です。(英語で刊行されている単著としては、現時点でおそらくこの2冊のみです。)ハンスカのごく簡単な略歴やその他の論文については、上記著作についての記事をご参照ください。

 本書は、中世説教を専門に研究する著者が、その他の史料も駆使しながら、中世の人々がいかに自然災害に向き合ったかを論じた興味深い一冊です。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

謝辞

 

序論

第1章 背景

第2章 神の保護を求めて

第3章 災禍のとき

第4章 余波―自然災害への説明と生存―

第5章 エピローグ―長い中世―

結論

 

付録1

付録2

参考文献

人名・地名索引

事項索引

―――

 

 序論は(1)本書の目的、(2)(本書での)災害の定義、(3)3つの課題とアプローチ、(4)本書の構成を示します。(1)本書の目的は、中世の人々が自然災害と戦い、それを生き延び、またそれを説明するための手段として宗教をいかに用いたかを明らかにすることです。(2)ペストについては多くの研究がなされていますが、ヨーロッパ全体をおそった災害だけでなく、特定の地域に局所的にあった様々な自然災害(地震、洪水、干ばつなど)を対象にします。(3)主要な三つの問題は、災害から身を守るための方法、切迫した危険への対応方法、自然災害後にいかに生き延びるか、の三点です。これらについて、本書では集団的対応と個人的対応の、大きく二つの観点から分析します。

 

 第1章は、研究史、中世全体での災害の状況の概観などを示します。興味深い点をメモしておきます。まず、こんにち、我々が(ニュースなどで)災害を眼にするのは、重大な災害が主ですが、経済的損失や人命に関わる災害は、日々(どこかで)発生している、ということが確認されます(p.15)。また、中世において[現代にも通じるかもしれませんが]、人々の全ての世代が、少なくとも一度は重大な自然災害を経験していることが確認されます(p.18)。本章は、先行研究がペスト研究に重点を置きすぎており、その他の自然災害に十分な注意を払っていないことを強調します。これに関連し、史料の中の「過去最悪の災害」という表現は、こんにち的意味ではなく、記述者の記憶の範囲での「過去最悪」であるという興味深い指摘がなされます(p.21)。また、心性史家にとっては、災害が実際にどうであったかということより、それがいかに解釈され、いかなる反応を起こしたかの方が重要であることも指摘されます(p.22)

 本書で用いられる主な史料は、年代記、災害説教catastrophe sermon、典礼などであることも本章で示され、それらの性格が簡単に紹介されます。本書の特徴は、先行研究のない災害説教を主な史料として用いていることで、それらは実際の災害に際して作られたものと、そうではないが範例説教model sermonとして使えるように作られたものがあることなども示されます。

 

 第2章は大きく3節からなります。第1節は、災害を防ぐために行われた様々な儀礼(魔術、行列、作物を守るため畑に十字架を設ける儀礼など)を紹介します。第2節は、守護聖人の重要性を示します。第3節は、中世にも自然災害に対する理性的な見方はあったことを示します。とはいえ、中世において強調されるのは霊的、超自然的な見方(手段)でした。

 

 第3章は、災害の最中になされた対応として、大きく集団的対応と個人的対応を示します。前者として、行列、災害説教、随意ミサの三つ、後者として悔悛などがあります。行列は、初期中世から近世まで、自然災害への対抗手段として用いられました。災害説教については、説教の史料論にも踏み込みながら、詳細な分析がなされます。説教一般については、著名な説教師が招かれることもありますが、災害説教については、緊急の対応が必要なため、地方の聖職者が担ったといいます。また、災害説教として残されている史料は少ないですが、同一の主題や内容をもつ祈願祭説教(こちらは範例説教として多く残されています)も、災害説教として使用可能であったことなど、興味深い指摘がなされます。随意ミサについてはメモを省略します。個人的対応としては、逃げる、施しを行う、祈りを唱えたり守護聖人の保護を求めたりする、などの方法が紹介されます。

 

 第4章は、災害後に、災害についてどのような説明がなされたか、また人々がどのような行動をとったかを示します。説明は、(1)スケープゴート・政治的説明、(2)科学的説明(しかし、同時に神の怒りといった説明もなされることが多い)、(3)黙示的説明、(4)神の仲介という説明(神からの罰という見方の一方、神からの慈悲=来世での救済といった見方も)の、大きく4つに分類されます。また、聖職者による司牧とその効果についての分析もなされます。

 

 第5章のエピローグは、ル・ゴフの提唱する「長い中世」概念をもとに、中世以降の自然災害への対応を概観し、近世にも、中世的説明が続いていたことを示します。すなわち、自然災害に対する心性については、「長い中世」概念が妥当することが示されます。

 

 結論は、本書の内容の整理となっています。

 

 付録では、災害説教について、時代ごとの数の分布や修道会ごとの数の分布などの統計が示され、さらに災害説教のサンプル(ラテン語のため現時点では読むのは省略しました)も紹介されており、充実しています。

 

たいへん興味深い内容の一冊でした。

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Last updated  2018.11.18 17:28:52
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