KAAT蝶々さんは演劇とオペラとの融合で面白い
鑑賞日:2012年11月17日(土)15:00開演入場料:¥4,500 C席3階→S席2階【主催】KAAT神奈川芸術劇場平成24年度文化庁優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業第19回神奈川国際芸術フェスティバル 「マダムバタフライX」 プッチーニのオペラ「蝶々夫人」より会場:神奈川芸術劇場ホール作曲:ジャコモ・プッチーニ 編曲:山下康介 構成・演出:宮本亜門出 演:▼歌手キャスト蝶々夫人:嘉目真木子ピンカートン:与儀巧スズキ:田村由貴絵シャープレス:大沼徹ケイト:鈴木純子ゴロー:吉田伸昭 ▼アクターキャスト 内田淳子神農直隆兼松若人柳橋朋典池袋遥輝(子役)▼演奏キャストピアノ/小林隆一、八木淳太 ヴァイオリン/吉田翔平 トロンボーン/山城純子パーカッション/藤井珠緒感 想: 昨年1月に開館した神奈川芸術劇場は、演劇やミュージカル中心のためこれまで訪れる機会が無かったが、芸術監督の宮本亜門演出でオペラ「蝶々夫人」を題材に演劇と複合させた「マダムバタフライX」と題した公演があるとのことで、冷たい雨の中、山下公園近くまで出掛けた。 事前にホール側から「演出の都合で席が変更になる」との個別連絡があり、受付でチケットを交換、3階C席から2階S席にアップグレードに。 ホールに入ると3階席全てと1、2階席両サイドがクローズになっており、観客数に合わせてより見やすい席に集約した状況。満席で1300人だが1、2階に空き席もあり6~7割程度か。 座席と舞台が近く、照明はTVスタジオの様にむき出し、幕は無く舞台床面と壁が全て緑色に塗られて、舞台上部に天井から大きなスクリーンが吊るされている。 開演のブザーと共に演劇キャストが登場し、「蝶々夫人」を題材としたTV番組を作るためスポンサーに見せるVTRをこれから制作するとの設定を演じる。続いて歌手キャストが登場し、衣装に着替え、第1幕スタート。緑の壁の前で歌うのだが、クロマキー手法でカメラで撮影された映像に既に作ってある背景を重ねてスクリーンに映し出される。映像は白黒のため、幕末の長崎にように思える。 第1幕は、芸者達やボンゾの部分は省略され、演劇入れ50分でTVスタッフ役の「これから15分間の休憩に入ります」で会場も休憩に。 第2部は、女性副ディレクターが携帯電話で離婚間近で子供の親権の話が入り、その子供が登場し蝶々夫人の子供役をその後演じる。 オペラ第2幕が始まり、アリア「ある晴れた日に」では白煙等の演出も加わり盛り上がってブラーヴァとなる。ヤマドリは省略され、ハミングコーラスは合唱はなく演奏のみで2幕終了。 ここでディレクターにスポンサーが降りる電話が入り、ディレクターが会社へ戻り撮影は一次中止に。副ディレクターからスポンサー説得のためにVTRを完成させたいと懇願され撮影を続けることに。子供が母親との別れに気付き、気を引くため化粧をし、叱咤される。 第3幕はスクリーンが上がって実演のみ。ここで時間が交錯したとのことか。蝶々さんの思いを知ったピンカートンがアリア「さらば愛の巣」を歌い去った後、シャープレスがスズキに子供を引き取る話をし、ケイトに対面した蝶々さんは全てを悟り、子供を遠ざけた後、アリア「さよなら坊や」を歌い衝立の後ろで自害。蝶々さんへ駆け寄る子供を母親の副ディレクターが胸に抱いて幕(暗転)。 第2、3幕で70分に短縮。 音楽の方は、歌手は皆さんよく歌えている。特に蝶々夫人役の嘉目真木子は声量は大きくないが美しい歌声で、ホールも大きくなく、演奏も小編成のため、歌声がよく聞こえる。蝶々さんは15~18歳の設定で今回スクリーンに映されることから容姿も重要となるで、その点でも良かった。 演奏の方は、ピアノ、ヴァイオリン、トロンボーン、パーカッションが各1人の小編成に編曲されており、生の楽器の良さを感じたが、フォルテ部分の音楽は貧弱で安っぽく感じた。プッチーニの音楽を表現するには少々無理がある編成で、電子楽器の方が良かったか。 演劇とオペラを組合せ、また現在のTVスタジオと白黒クロマキーの幕末との時間差を上手く使い分けており分かりやすい演出。蝶々さんを現在の女性につなげて見せることでより心情が伝わり、ラストの客席ではすすり泣きが沢山聞かれた。プログラムにあるようにオペラをあまり見ない観客にも入りやすかったと思われる。 天候の影響もあるかと思うが、観客が少なかったことが残念。ぜひこのような取組を今後も続けて欲しい。End