|
カテゴリ:日記のようなもの
一人の大切な人と出会うのと、
一冊の大切な本と出会うのは、 人生において等しい重みを持っていると思う。 多生の縁という言葉を信じる信じないは別にしても、 人から勧められなければ絶対に読まなかった本、又 はそもそも目に止まる事も手にする事も無かった本 いうのは確かにある。 あるwebサイトのある人の日記で、ある本の事が紹介 されていた。私はその文の中のたった一言と一文だ けで、今日その本を本屋で探してみる気になった。 ほとんど定時で仕事を上がり、連休中のTV番組で紹 介されていた品川の回転寿司屋に足を運んでみた。 どちらかと言えば可という程度の寿司で腹を満たし、 品川駅の煌びやかなモール内にある大きな本屋でそ の本を捜してみた。 もし無ければ地元の本屋でも探してみるつもりでい たが、自力では見つからず、店員も最初に尋ねた時 にはまずハードカバーで見つけられず、文庫本のコー ナーでも見つけられず、ダメかなと思ったが、他の 店員に聞きに行って、彼は目的の本の文庫版を手に して戻ってきた。 そんな風に、縁は切れなかった。 探してはいるが、取り寄せる程ではない。そんな風に してもう3ヶ月以上方々の本屋を立ち寄っては探し続 けている本もあったりするのだが、この本には意外と あっさり出会えた。 出会うべきものは出会う。 そんな風に、人や本と出会うのが、私は好きだ。 この本で私が気に入った言葉や文章をいちいち挙げて いったら、それこそ丸ごと本自体を読んでもらった方 が早い。 話は、『センセイ』と『わたし』の大人の恋物語。 センセイは60台後半、わたしは30台後半。 確かに大人な二人が、気ままに行き会い、盃を交わし、 時には子供のようにどうしたら良いか分からぬまま、 しかしお互いを確かに求めていく様が描かれていた。 『センセイと過ごした日々は、あわあわと、そして色濃く、流れた。』 そんな風に語られる関係が、読んでみて、 なるほど、と非常にしっくりと来た。 『あわあわと、そして色濃い』 空気の様に茫漠とした存在が、いつの間にか 自分という存在とその生活に入り込み、根を 下ろし、気がついて見れば逃げ場所なぞ無く なっている。 他人との間に張り巡らしている筈の障壁が、 その相手と過ごした何でもないような時間や、 その相手と交わした何でもないような言葉で、 しんしんと溶かされていく。 その相手との間にあった障壁が溶け去った時 はっきりと気付く。 自分は、その相手の事が好きなのだと。 そうして二人の間にあった茫漠とした空気が、 時間が、 恋という色彩で彩られていく事になる。 『あわあわと』。 いいなぁ、と素直に思った。 この一冊に巡り合わせてくれた人に、そして 今までの人生の全ての巡り合わせに、感謝。 そんな一晩であり、一冊だった。 <文:『センセイの鞄』 川上弘美 より> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[日記のようなもの] カテゴリの最新記事
|
|