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2017.05.04
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カテゴリ:書籍
笑犬楼よりの眺望

笑犬楼よりの眺望

 あたしゃ、キれました。プッツンします。(429ページ)
著者・編者筒井康隆=著
出版情報新潮社
出版年月1996年8月発行

SF 作家であり俳優の筒井康隆さんが、『噂の真相』に約 10 年連載したエッセイ集。社会を揺るがす騒ぎになった「断筆宣言」をもって、この連載は終結する。
およそ 30 年前の世相をネタに書かれているのだが、筒井康隆さんの筆は、マスコミの報道姿勢を批判し、出版不況を憂う。まるで 21 世紀の今の社会を風刺しているかのようだ。さすがは SF 作家だ。

愛煙家である筒井さんは、禁煙運動に疑問を呈する。「煙草というのは人間を情緒的にする偉大な発見であった。だが、それをよいことにして喫煙者いじめがどんどん進行すれば世の中はどうなるか」(196 ページ)。「喫埋者に対してあれだけきびしく非難していながら、飲酒者に対して甘いのはなぜか」(198 ページ)。

筒井さんは、いわゆるオタクに対して好意的である。
東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件に際しては、「現実にいちばん影響をあたえ、現実がいちばん真似しやすい虚構とは何かといえば、それは言うまでもなくテレビ・ドラマ、特にホーム・ドラマである」「これらの虚構から悪影響を受けている人間の数の多さは、いうまでもなくアニメ・ファンの数の比ではないのである」(268 ページ)。「自分の心や平凡人の中にひそむ悪を怖いと思わないからこそ、のっペらぼうで画一的な社会になり、ミヤザキが逮捕されたとなるとミヤザキのことが連日報道される」(264 ページ)。

だが、政治家に対しては容赦ない。
リクルート事件に関わる国会証人喚問では、「リベート金額の非常識さを逆に証人から指摘されてととはを失い、笑い声や野次のため完全にうろがきてしまった。他の野党にも言えることだが、独自の調査をせず、新聞記事にばかり頼るからとういうことになる」(249 ページ)「野党はもっと頭のいい悪人を質問者に立てなさい」(251 ページ)

マスコミの姿勢に対しては、俄然、筆が鋭くなる――「田中角栄に端を発する、マスコミの、偉いひといじめ、強いひといびりである」(67 ページ)、「差別をなくすための用語規制というのはその社会の文化的背景まで破壊するととになり、未開度が逆に進行するだけなのだ」(101 ページ)、「マスコミだけでなく日本人全体に、いじめた側を制裁することによって何かが自分の身にはね返ってくるのを恐れる感情があるように思えてならない」(114 ページ)、「泣いている遺族に向かって「今のご感想は」と訊ねる精神たるや、どのように荒廃した精神なのであろう」(224 ページ)、「おれが言いたいのは「反権力」というジャーナリスティックな姿勢もまた「権力」であるというととだ」(259 ページ)、

そして、1993 年(平成 5 年)9 月、「重ねて申しますが、是非ど理解戴きたいのは、てんかんを持つ人に運転をしてほしくないという小生の気持は、てんかん差別につながるものでは決してないということです。てんかんであった文豪ドストエフスキーは尊敬するが、彼の運転する草K は乗りたくないし、運転してほしくないという、ただそれだけのことです」(425 ページ)と書いた翌月、「あたしゃ、キれました。プッツンします」(429 ページ)と「断筆宣言」する。
筒井さんは、最後に、「これは現在の『ことば狩り』『描写狩り』『表現狩り』が『小説狩り』に移行しつつある傾向を感じ取った一作家のささやかな抗議である。おわりに、強く言う。文化国家の、文化としての小説が、タブーなき言語の聖域となることを望んでやまぬことを」(432 ページ)と締めくくった。

本文から一部引用しただけだが、どうだろうか。2017 年(平成 29 年)の現代にも通用する省察ではないだろうか。
筒井さんは、時々、Twitter に投稿をしている。「俺が断筆宣言した頃と何も変わっちゃいねーな」と苦笑いしているにちがいない。

巻末に、『噂の真相』編集者の岡留安則さんによる、少し長めの解説が収録されている。
この中で、中野サンプラザにおける「筒井康隆断筆祭」のエピソードが書かれている。『噂の真相』の永久スポンサーで、このイベントに 2 千万円のカンパをしたビレッジセンター社長・中村満さんの話を耳にし、私はこの頃から同社のソフトウェア「VZ エディタ」のユーザーとなった。この原稿も、後継ソフト「WZ エディタ」で書いている。
肉筆だろうがワープロだろうが、書いた人の心が宿る文章は本物である――。






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最終更新日  2017.05.04 11:51:41
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