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カテゴリ:書籍
宇宙ベンチャーの時代

宇宙ベンチャーの時代

 ド赤字な宇宙ベンチャーに高い株価が付く理由は、将来高い成長が期待でき、高い企業価値が実現されることを投資家が期待しているためであるわけです。(242ページ)
著者・編者後藤大亮=著
出版情報光文社
出版年月2023年3月発行

著者は、ベンチャーキャピタリストの小松伸多佳さんと、JAXA主任研究開発員の後藤大亮さん。投資と宇宙開発の現場で活躍する2人が、民間宇宙開発の現状と今後について語る。

2021年は民間宇宙旅行元年となった。7月11日にヴァージン・ギャラクティック社が創業者リチャード・ブランソン氏を乗せて宇宙空間の一番低い領域まで飛び、その直後の7月20日にブルー・オリジン社が創業者ジェフ・ベゾス氏を乗せて飛んだ(48ページ)。
だが、2021年に突如として宇宙ベンチャーが現れたわけではない。2019年時点における宇宙経済に占める民間セクターの割合は世界の宇宙経済全体5.2兆円(3659億ドル)の4分の3に達しており、宇宙開発は政府主導から民間主導へと転換してのである(46ページ)。
著者らは、この転換には「3つの導線」があったという。すなわち、1)民間宇宙賞金レース、2)ビリオネアの参入、3)NASAによる宇宙ベンチャー育成プログラムの3つだ。
まず、1996年に米国Xプライズ財団が宇宙飛行レースに賞金をかけた。2004年10月に、独創的な機体を開発した米スケールド・コンポジッツ社は、ビリオネアでヴァージン・グループの総帥のリチャード・ブランソンの目に止まり、ヴァージン・ギャラクティック社へと発展する(57ページ)。
そのビリオネアは、ブランソン以外にも、スペースX社を創設したペイパルやテスラ・モーターズなどの創業者イーロン・マスク、ブルー・オリジン社を設立したAmazon創業者のジェフ・ベゾスらが宇宙事業に着手する(69ページ)。

著者らによれば、こうしたベンチャー企業が参入できるようになった背景には、1)ロケットのコスト破壊、2)衛星コンステレーション革命、3)分業の進展による「宇宙に行かない宇宙ビジネス」の躍進、があったという(89ページ)
ロケットのコスト破壊は、たとえばスペースX社は毎週ロケットを打ち上げ、そのエンジンはマーリン・ロケットエンジンをたばねた「クラスタエンジン」として用いるため、信頼性も高く、量産によるコスト低減が可能になった。さらに、ロケットもエンジンも地上に戻り、再利用が可能だ(206ページ)。
一方で、クラスタ・エンジンは細かい制御が必要になるが、イーロン・マスク氏が培ってきたIT技術を応用することで、この課題をクリアした。

従来、人工衛星といえばバスくらいの大きさで、重さも数トンを超えるのが相場だった。これに対し、重さ100kgから数100kgというような小型衛星コンステレーションが主流となってきている。大量生産による製造コスト低減はもちろん、短いライフサイクルで次々と軌道上の衛星を入れ替えるから技術的陳腐化を防ぐことができ、また、極軌道にも展開することで地上をまんべんなくカバーできる。さらにウクライナ戦争でクローズアップされたが、1つの衛星を破壊しても他の衛星でカバーできるので、安全保障上の耐性も高い(108ページ)。

宇宙に行かない宇宙ビジネスも増えている。たとえば、メイド・イン・スペース社の宇宙3Dプリンタは2014年にISSに搭載され、宇宙で必要な部品の製造が出来るようになった。
日本のアストロスケール社は、スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するサービスを展開するという。
製造コストが高い大型衛星に燃料を補給する衛星延命サービスも実現している。

NASAは、民間企業がISSへの人と貨物の輸送サービスを開発する事業として、COTS(Commercial Orbital Transportation Services、商業軌道輸送サービス)を立ち上げた(176ページ)。COTSは、従来は政府(Govement)から民間(Business)へ流れていた商流(GB)を逆転し、BGとすることに成功した。NASAやJAXAは税金が原資だから失敗が許されず、そのためコストが高くなり、そのコストに利益をアドオンする形だから、事業費用がどんどん上がっていった。BGとGBに転換することで、ステイクホルダが許せば失敗が是認されるようになり、コストダウンすれば利益が増える構造に転換したのである(203ページ)。

NASAは、ISSの後継として、2021年1月に3つの民間宇宙ステーション計画を認定した。ナノラックス社「スターラボ」、ブルー・オリジン社、ボーイング社、レッドワイヤー社、シエラ・スペース社「オービタル・リーフ」、ノースロップ・グラマン社の宇宙ステーションだ(144ページ)。

イーロン・マスクは、事業を立ち上げるに当たって大きな打ち上げ花火をあげて、なかば炎上ビジネスのような流れに持ち込む。著者らによれば、彼は「経済の論理をよく体得していて、人々の期待を上手に操りながら、スペースX社の基礎を固めていった」(198ページ)という。人々が抱く期待に沿ってマスク氏が経済的行動を起こし、合理的な期待を抱かせるような政策を施すことで、経済をよりよい方向に導くことができるという「合理的期待学説」にかなっているというのだ。
しかし、それが成功を期待された経営手法だとしても、私は、ワーカーホリックな彼の下で仕事はしたくはないな?

宇宙ベンチャーは赤字経営の会社が多い。にもかかわらず、上場できるのはなぜか――。
著者らは、リスク・マネーを並べると、政府資金>エンジェル・マネー>ファンドマネー>一般投資家マネー>年金マネーの順に、リスク許容度は低くなっていくという(244ページ)。つまり、現在は宇宙ベンチャーのリスクが、一般投資家の許容範囲にまで低くなってきているのだ。
わが国でも、JAXAが宇宙ベンチャーと共同で行う新しい研究開発プログラム「J-SPARC」がスタートした。著者らは、「国民の税金で宇宙開発をしてきたJAXAは、技術的な成果を達成すべきことはもちろん、もし機会があれば、積極的に投資を回収して、資金提供してくれた国民に還元すべきである」(272ページ)と考えている。
わが国は、宇宙産業の技術的な蓄積が十分であることに加え、ロケットを打ち上げるのにも有利な立地で、資本の蓄積も十分だ。
著者らは、わが国の宇宙ビジネスが花開くには、「今ここにいる我々の努力にかかっている」(313ページ)と結ぶ。

スペースX社のファルコン・ロケットが、サンダーバード3号のように垂直離着陸できるという話を聞いたとき、眉唾物だと思った。だがしかし、イーロン・マスクは、この難題をクリアし、毎週ロケットを打ち上げている。
よく考えてみれば当たり前の話で、IT技術はスペースシャトルの時代に比べて大きく進歩した。ロケットエンジンの噴射制御をリアルタイムで行うことくらい難なくできるのだ。だから、アメリカではG2BがB2Gに大転換できた。
21世紀なんだから頭を切り替えていこう!
本書は最後に、宇宙太陽光発電(SSPS)構想を紹介する。私は、原子力発電に代わるベース電力は宇宙太陽光発電だと考えている。軌道上にある数平方キロの巨大な太陽光発電パネルで発電した電力は、マイクロ波ではなく、宇宙エレベーターに併設する送電ケーブルを通って地上に送電されるだろう。
あり得ないことはあり得ない――けっして夢ではない未来に、私も財布から少しでも投資していきたい。






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最終更新日  2023.06.29 12:39:33
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