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カテゴリ:書籍
著者は、ベンチャーキャピタリストの小松伸多佳さんと、JAXA主任研究開発員の後藤大亮さん。投資と宇宙開発の現場で活躍する2人が、民間宇宙開発の現状と今後について語る。 2021年は民間宇宙旅行元年となった。7月11日にヴァージン・ギャラクティック社が創業者リチャード・ブランソン氏を乗せて宇宙空間の一番低い領域まで飛び、その直後の7月20日にブルー・オリジン社が創業者ジェフ・ベゾス氏を乗せて飛んだ(48ページ)。 著者らによれば、こうしたベンチャー企業が参入できるようになった背景には、1)ロケットのコスト破壊、2)衛星コンステレーション革命、3)分業の進展による「宇宙に行かない宇宙ビジネス」の躍進、があったという(89ページ) 従来、人工衛星といえばバスくらいの大きさで、重さも数トンを超えるのが相場だった。これに対し、重さ100kgから数100kgというような小型衛星コンステレーションが主流となってきている。大量生産による製造コスト低減はもちろん、短いライフサイクルで次々と軌道上の衛星を入れ替えるから技術的陳腐化を防ぐことができ、また、極軌道にも展開することで地上をまんべんなくカバーできる。さらにウクライナ戦争でクローズアップされたが、1つの衛星を破壊しても他の衛星でカバーできるので、安全保障上の耐性も高い(108ページ)。 宇宙に行かない宇宙ビジネスも増えている。たとえば、メイド・イン・スペース社の宇宙3Dプリンタは2014年にISSに搭載され、宇宙で必要な部品の製造が出来るようになった。 NASAは、民間企業がISSへの人と貨物の輸送サービスを開発する事業として、COTS(Commercial Orbital Transportation Services、商業軌道輸送サービス)を立ち上げた(176ページ)。COTSは、従来は政府(Govement)から民間(Business)へ流れていた商流(GB)を逆転し、BGとすることに成功した。NASAやJAXAは税金が原資だから失敗が許されず、そのためコストが高くなり、そのコストに利益をアドオンする形だから、事業費用がどんどん上がっていった。BGとGBに転換することで、ステイクホルダが許せば失敗が是認されるようになり、コストダウンすれば利益が増える構造に転換したのである(203ページ)。 NASAは、ISSの後継として、2021年1月に3つの民間宇宙ステーション計画を認定した。ナノラックス社「スターラボ」、ブルー・オリジン社、ボーイング社、レッドワイヤー社、シエラ・スペース社「オービタル・リーフ」、ノースロップ・グラマン社の宇宙ステーションだ(144ページ)。 イーロン・マスクは、事業を立ち上げるに当たって大きな打ち上げ花火をあげて、なかば炎上ビジネスのような流れに持ち込む。著者らによれば、彼は「経済の論理をよく体得していて、人々の期待を上手に操りながら、スペースX社の基礎を固めていった」(198ページ)という。人々が抱く期待に沿ってマスク氏が経済的行動を起こし、合理的な期待を抱かせるような政策を施すことで、経済をよりよい方向に導くことができるという「合理的期待学説」にかなっているというのだ。 宇宙ベンチャーは赤字経営の会社が多い。にもかかわらず、上場できるのはなぜか――。 スペースX社のファルコン・ロケットが、サンダーバード3号のように垂直離着陸できるという話を聞いたとき、眉唾物だと思った。だがしかし、イーロン・マスクは、この難題をクリアし、毎週ロケットを打ち上げている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.06.29 12:39:33
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