映画『RENT』今を生きるしかない♪
有名なブロードウェイ・ミュージカル『RENT』の映画化作品を観て来た。『RENT』は1989-1990年のNY、イースト・ビレッジに生きるアーティストたちの物語だ。ミュージカルは最初、1996年にオフ・ブロードウェイで初演され、大評判となってたった2ヶ月半でブロードウェウィに進出している。映画化されたのはそれから9年後の2005年だ。今年の秋、ミュージカル『RENT』が日本にやって来る。だから見る順番としては逆になってしまうのだが、映画『RENT』は素晴しい出来だった。【CD】RENT/レント / サントラ1980年代の終わり頃のNY。あの頃の時代の空気は僕もはっきりと覚えている。1980年代中ごろのNYは、マドンナ旋風が吹き荒れたこともあって、NYのアスタープレイス(8丁目あたり)に行くと、マドンナと同じ様な格好をした女の子がいっぱいいた。しかし、NYの街はその頃から少しずつ変容していった。1980年代になって、NYのブルックリンやサウス・ブロンクスから、HipHopカルチャーが生まれ、スクラッチDJ,ブレイク・ダンス、地下鉄の列車や道路の壁いっぱいに描かれたグラフィティが注目され始めた頃だ。グランド・マスターDJ、アフリカ・バンパータ、など、初期のアーティストが活躍し、Run DMCが「Walk This Way」で、大ヒットした1986年よりも前のことである。1985年には俳優のロック・ハドソンがAIDSであることを発表。亡くなったのをきっかけに、NYではAIDSに関する危機感がじわじわと押し寄せていた。キース・ヘリングがサブウェイ・ドローイングと呼ばれる活動を始め、そのシンプルでリズムを感じるグラフィティがNYで評判となった。彼のグラフィティ(落書き)がアートと認識されるようになる頃、キース・ヒリングは1990年、31歳の若さでAIDSでなくなった。QUEENのフレディ・マーキュリーが自らAIDSと公表した翌日にこの世を去ったのが1991年だから、NYでの状況は、日本でのAIDSへの関心や認識と違い、早い時期から、自分達の問題としてNYでは受け止められていた。どこから出てきた数字か分からないが、80年代後半当時、NYの11人にひとりは、AIDSではないかと言われ、それから2-3ヶ月たたないうちに、NYの9人にひとりはAIDSではないかと言われていた。大学のトイレには、オーラル・セックスでも、アナル・セックスでも、ヴァジャイナル・セックスでも、コンドームを使いましょう、というポスターが貼ってあった。つまり、同性愛か異性愛かをとわず(そのことを問題にするのではなく)、Safe Sexのためにきちんと予防しましょう、ということだ。このポスターを見たときに、ぼくはやっぱりNYだなぁ、と思った。こんあポスター、東京じゃ貼れないよなあ、と思った。Safe Sex以前に、同性愛や、多数のパートナーとセックスすること、そのものが倫理や道徳で云々され、非難され、差別されるのではないだろうかと思った。NYは、そういった部分には立ち入らないで、「あなただどういうセックスをしようが一切かまわないが、コンドームだけはちゃんと使ってね」というメッセージ。こんな当時のNYでは、かつてのSOHOがすでに高級ギャラリーの場と化して、あたらしいアーティストが生まれてくるのは、ローワー・イースト、イーストビレッジであるといわれていた。NY、マンハッタンは、南北縦の道路をアヴェニュー、東西横の道路をストリートと呼んでいるが、アヴェニューの番号が、西から数字が減っていって、5番街(フィフス・アベニュー)から1番街(ファースト・アヴェニュー)となっていくのだが、ローアー・イーストでは、数字が足りなくなって、アヴェニューA,アヴェニューB、Cと南北縦の道路があって、そのABCアヴェニューあたりは、ドラッグや娼婦のたむろする危ない場所として、絶対に行ってはいけない地区、とよく言われたものだ。後日、ぼくが働くようになって出会った先輩は、当時イースト・ヴィレッジにある、日本人画家のアパートメントを借りて住んでおり、アッパー・イーストにあるNYオフィスに通っており、毎日、黒塗りのクルマで夜遅く帰宅していたので、まわりの住民から、ドラッグ・ディーラでもうけている謎の男と思われていたそうだ。東京の本社からは、そんな危ないところからすぐに出てもっと安全なところに住みなさい、と何度も指示が来たそうだが、安心できる日本人画家のアパートなので、なんで本社の人間はそんなにさわぐのかわからなかった、と笑っていた。その後、アーティストの居住地区は、西のトライベッカへ、その後は、14丁目付近へ移動しており、9.11の時に大活躍したジュリアーノNY市長の政策で、マンハッタン内を徹底的に安全にし、ホームレスを外へ押しやって、今のイースト・ビレッジは安全なところに変わったそうだ。そのホームレスたちは、いったいどこにいったのだろうか。その分、ブルックリンやブロンクスがさらに危ない街にかわっただけではないだろうか。NYは安全性と引き換えに、猥雑さと雑多なエネルギーがまじりある、アーチストのパワーあるれる街から一歩後退したのではないかと、ぼく自信は思っている。そうした時代のイースト・ヴィレッジの古いロフトに住むアーティストたちや、その友人、恋人達のはなしを描いた作品が『RENT』だ。『RENT』とは、アパートやロフトの家賃のことであり、家賃さえはらえない若きアーティストたちが、HIVやAIDSと隣り合せに死の恐怖をかかえながらも、生きていく物語だ。主人公のロジャーは、恋人がドラッグとAIDSでなくなってしまい、ひきこもりがちになってしまったミュージシャン。彼とロフトをシャアしているのが、ドキュメンタリー作家(映像作家)をめざすマーク。(マークはおそらくジューイッシュ系という設定のように思う)ロジャーの恋人に、ナイトクラブのダンサーミミ。彼女の元恋人は、資産家の娘と結婚して、不動産を所有し、元のルームッメイトたちに家賃を払えとせまる。家賃が払えないなら出て行け、とこの地区の再開発をもくろんでいる。マークのもと恋人は、パフォーマンス・アーティストのモーリーン。マークからモーリーンを奪ったのは、アフリカ系アメリカ人女性、弁護士のジョアンヌ。ロジャーやマークと友人のアフリカ系アメリカ人男性のコリンズは哲学の教授。彼の恋人は、ドラッグ・クイーンのエンジェル。このように、登場人物は、多人種で、男性同士の恋人、女性同士の恋人、元カレ、元カノの三角関係もあり、HIVポジティブのひとが4人いる。もしかしたら、みなさんはアーティストと弁護士、ドラッグ・クイーンと大学教授が恋人なんて設定はありえない、と思うかもしれないが、NY、特にビレッジ周辺の住民は、そんな組み合わせはよくあることだった。しかも、この当時はAIDSは不治の病であり、そういう緊迫感の中で彼らは生きていた。今ではHIVに感染していても、きちんと治療して薬を飲めば、死ぬことはない病気になったらしい。それだけ、新薬の開発が進歩しているらしい。しかし、HIVのウィルスを完全になくすことは出来ず、今のところ一生クスリを飲まなければならないらしいが。また、もう常識かもしれないが、HIVに感染していても、すぐに発病するとは限らず、10年以上あとに発病してAIDSとなることもある。しかし、発病していなくてもHIV感染者は、性行為などを通して他人にウィルスをうつす可能性が非常に高く、そのためにも、早期検査、早期発見が今、さけばれているところだ。映画は、ブロードウェイ・ミュージカルの舞台で、この8人の登場人物が歌うところからはじまる。「Seasons of Love」♪525,600 minutes, 525,600 minutes dear,How do you measure a year>♪Five Hundred twenty five thousand six hundred minutesとはすなわち、60分x24時間x365日=525,600分 で1年のことだ。分で考えると相当長い、1年間というものを、あなたはどんな尺度で測りますか?という問いかけだ。うらには、だから1分、1分、1日、1日を大切に生きなさい(生きたい)というメッセージがこもっているのだと思う。AIDSが不治の病であった当時(いまもそうだが、ちゃんと治療すれば死ぬ確立はかなり低くなったそうだ)、HIVポジティブが8人の仲間のうち半分いる彼らが、発病の恐怖と向かいながら、だからこそ、毎日を大切に精一杯生きていこう、大切な人と一緒に、という思い。この映画および、オリジナルのミュージカルは結局、この前向きなメッセージでつらぬかれている。フィナーレで歌われる「Finale B」では、♪There is no future, there is no past,No other road, no other way,No day but today♪未来も、過去もない。他の道も方法もない。今日という日があるだけ。ここでも、やっぱり今を精一杯生きよう、というポジティブな歌が歌われている。ストーリーは、ネタバレになるので、一切書かなかったが、当時のNYという場所の時代の緊迫感を感じながら、この映画を見ると、それでも、苦難を乗り越えて一生懸命生きていこうとする彼らの姿にはげまされるし、元気さえ出てくる。どうして、こんな不幸な設定なのに、と思うが、単なるアーティストたちの恋愛・青春物語ではなくて、「今を生きよう」という普遍的なメッセージがあるからだろうか。とっても感動した。しかも、映画の主役8名のうち、ブロードウェイ・ミュージカルのオリジナル・キャストが6名出演しており、彼らの歌がすごくいいのだ。歌、コーラスが重なるところ、男と女が歌いあうシーンは、映画ではなくてまるでミュージカルを観ているような迫力で感動ものだ。この2曲以外にも、歌詞もよく、キャストの歌が胸に迫るシーンがいっぱいある。なぜか、今日は20歳前後の女性のお客さんが多かったが、ぼくのとなりに座った20歳ぐらいの今どきの女性は、めがしらにあふれる涙をそっとぬぐっていた。生きる元気をいっぱいもらえる映画だと思う。みなさんにぜひとも観ていただきたい映画だし、僕自身も、11月に日本にやって来るミュージカルをぜひ観てみたいと思う。オススメです。ミュージカル「RENT」は、東京厚生年金会館大ホールで、2006/11/16[ 木 ] ~ 2006/11/25[ 土 ]です。詳しくは下記まで。