◆(7)禁酒法時代に生まれたスラング(俗語)
禁酒法時代に流行したスラングには、「スピーク・イージー(Speakeasy=もぐり酒場)」のほかにも、今もなおよく、バーの店名などに使われる言葉があります。例えば、「ムーン・シャイン(Moon Shine=密造酒)」。これは当局の摘発から逃れるために月夜の晩に酒を密造していたことが由来です(※ただしこの言葉は、独立戦争後の18世紀後半、ウイスキーに重税を課した政府に対抗し、山間部で月光の下で酒を密造したことが由来とする説もある)。
ちなみに密造業者のことは「Moonshiner」と言われていました。「密造酒」を意味するスラングは他にも多く、White Lightning、Skull Cracker、Mule Kick、Panther’s Breath、Happy Sallyなど数多く伝わっています。
また、今日では「禁制品」や「(レコードやCDなどの)海賊盤」を意味する「ブートレグ(Bootleg)」(「Bootlegger」だと「密輸する人」の意)という言葉も、禁酒法時代に生まれました。禁酒法に反発する国民は、密造酒を国外から持ち帰る際に、だぶだぶのズボンをはいてブーツに隠して持ち帰りました。その有様を表現した言葉といいます。
ちなみに、今日でも流通している「内側にややカーブした平たい形」のウイスキーのポケット瓶が生まれたのはこの禁酒法がきっかけです。密輸する際、ブーツの内側に隠しやすいようにとあの形が考案されたのです。
さらに、日本ではあまりメジャーな言葉ではありませんが、「86(Eighty-six)」と言えば、「売り切れ」「品切れ」「お断り」「泥酔客」(動詞として使えば「隠す」「殺す」「消す」、過去形はeighty-sixed)を意味する禁酒法時代に生まれた隠語です。
語源は諸説ありますが、手入れを避けるために表玄関からは入れないようにしたニューヨーク・ウェストビレッジのもぐり酒場「チャムリーズ(Chumley’s)」【注】=写真( ( C )Observer Com. )=の住所(Bedford St. 86番地)にちなむという説が一般的です。
なお、「スマグラー(Smuggler)」というスラングも日本でよく知られていますが(スコッチ・ウイスキーの銘柄名にも)、この言葉は禁酒法時代の米国でなく、17世紀のスコットランドで生まれたものです。イングランド王による様々な酒造規制や重い課税に抵抗するスコットランドの零細酒造業者は、密造した酒を流通させました。
彼らはいつしか、密輸出入するという意味の動詞「スマッグル(Smuggle)」から転じて、「スマグラー=密造人、密造酒運搬人」と呼ばれるようになり、これが今も伝わっているのです(なお語源は不詳です。ご情報お持ちのの方はご教示ください)。
【注】「Chumley's」は1926年に開業。作家や文化人にも愛され、フォークナー、オニール、スタインベックらも常連だったという。禁酒法廃止後も最近まで営業を続け、禁酒法時代の面影を残す数少ないバーとしてニューヨークの観光名所にもなっていたが、2007年4月、店舗内の暖炉につながる煙突が崩れ落ちたため、閉鎖された。Web情報では、建物を改修した後、再開させる計画も進んでいるとあるが、ことし8月時点の情報では、まだ再開のめどは立っていないという。
【禁酒法時代の米国<8>に続く】
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Last updated
2022/10/20 10:18:45 AM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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