テーマ:海外生活(7771)
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日本はこの日はひな祭りだというのに、白酒を飲むこともなく朝早くからわたしは病院の待合室で待っていた。
というのもおっとが「君の診察のたびにいちいち仕事を休んでいられないよ。」とおっとの出勤途中に放り出される形となった。 そのおかげで書類を早々と受付に提出、珍しく予約時間の9時30分きっかりに診察室に入る事が出来たわけである。 退院時にもらった書類には「ドンジョイを30日間固定したままでいること。」と書いてあり、ちょうどこの日は30日が過ぎていて、このうっとおしい左足のかせのようなドンジョイがはずされることを密かに期待していた。 診察台に足を投げ出すと、この間とはまた別の看護婦が不器用にドンジョイをはずす。 久しぶりにあらわになった左足は自分でも可哀相なぐらい痩せて、皮膚がまるで日焼け後のようにボロボロになっていた。 医師はひざをチョンチョンと触って「明日から腿の筋肉を鍛える練習をしないとね。」とデスクに戻り、ほぼ解読不能な文字でカルテと赤紙を書き出す。 医師「いいかい、ひざの右側についているダイヤルは、ぼくがセットした。明日から君は毎日ひざの左側についているダイヤルを10度づつ目盛りを変えて行くんだ。これ以上ダイヤルが廻らなくなったらその状態にして、今日から20日後にまた診察に来なさい。」 哀しいかな、わたしはすぐに言っていることが飲み込めなかった。今のわたしの目盛りは20度になっている。これをどうするって? 看護婦「今20度の目盛りを明日は10度、あさっては0度にするのよ。」 え、そうなのか??じゃあ、2日目盛りを変えてお終いってことか。もう一度医師に念を押してみる。 医師「違う違う。明日は30度、あさっては40度だ。」 看護婦「あら逆だったのね、オホホホホ。」←オホホホホ、じゃないよ。怒 ってことは、まだあと最低でも20日間はこのうっとおしく、重く、いいかげん臭くなってきているドンジョイがはずせないのか!? わたし「うわっ、いたたたたた!」 見れば看護婦が満身の力をこめて足にドンジョイを縛り付けているではないか?足はまるでモッツアレラチーズをぎゅ~っと握られたような状態だ。 わたし「めちゃくちゃきついんですけど?」 看護婦は「家に帰るまでにゆるんで落ちたら困るでしょ?家に帰ってから調整してちょうだい。」と言って、さっさとわたしは診察室から追い払われてしまったのであった。 しかたなしに待合室に戻っておっとが迎えに来るのを待った。 おっとは30分待っても、1時間待っても来ない。 こんな無駄な時間を過ごしている間に、20日後の診察の予約をしに行きたいのだが、予約棟は遠く、いったん外の道路を歩かなければならないのがこわい。 何度も携帯に電話をするが終いに「もうすぐ行くから!イライラさせないでよ!!」と怒鳴られた。 縛られた左足がうっ血しそうでもがいていると、やっと2時間後におっとから「病院の外にいるから歩行訓練を兼ねて出てこいよ。」とつっけんどんな電話がかかって来たのである。 おっとめ、妻がちょっと回復の兆しを見せるともうこれかい!? 仕事が忙しいのはわかる。 しかしこの診察時間は20日も前から決まっていた事だし、近所で働いていると言うのに融通はつかないのか? わたしはおっとに前日の夜に「明日、午前中に会計士のところ(別の町)に行ってよ。」とか「支払いが明日締め切りなんだ!お願い、銀行(ちなみに会社から遠い)に行って!」と言われても、そりゃあ文句のひとつふたつは言うが、なんとか仕事の都合をつけていつも行っている。はっきりいって去年の有給休暇はほとんどおっとや家の用事で消化されたようなものだ。 ムカムカしながら、地下1階にいたわたしは足をひきずり、車椅子用の長いゆるやかなスロープを登り始める。まるで急な坂を登っているようにきつい。乳母車を引いた奥さんが「大変ねえ。」とのどかな空気を振りまきながら、わたしを追い越して登っていった。悔しさに唇を噛み締める。それでもなんとか、モタモタ外に出た。 おっとはブスッとした顔をして登りきったところで待っていた。「次の診察の予約に行くんでしょ?さあ、さっさと歩いて!」 わたし「え?クルマで運んでくれないの?遠いよ。」 おっと「こんな短距離、歩けよ。」 そりゃあ、健全者には短距離だ。しかし、ハンディがある者には遠すぎる! しかしおっとを見れば、この時点でかなり不機嫌である。 おっとが不機嫌な時は何を言っても無駄なのは結婚後、腹が立つぐらい理解している。 わたしは仕方なしに松葉杖をついて石畳の歩道をつまずかないように歩き始めた。 普段はなんてことがない石畳も杖がくぼみに入ったり、傾いた石くれに滑りそうになったりで、かなりの恐怖だ。 ちょっとした段差も平らなところしか今まで歩かなかったわたしにはこわい。 松葉杖を握り締める親指と人差し指の付け根が力を入れすぎて真っ赤になった。 近くに見える予約棟にちっとも近づけないのがイライラする。 通りすがりの通行人はたいがいわたしをよけてくれるが、よけてくれずにズンズン向こうから向かってこられると、危うく歩道から落ちそうになる。 やっと予約棟にたどり着いた時には心身ともに疲れ果てたのであった。 しかし1時間後、予約を無事に取った後はもうおっとは昼休みに突入していたので、すぐに迎えに来たのがまだ救いであった。 家の下に着くとおっと「歩行訓練に、階段を自分で上がれよ。」 OOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHH,NOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!無理だよ、無理!! おっとはわたしが転げ落ちそうになっても大丈夫なように、わたしの後ろにつき、わたしは片足だけでピョコピョコ階段を上った。たかが1階だけ、といってもこんな状態の今のわたしには登山訓練にも感じられたのであった。 やっと登り切り、わたしは家に入ってソファに身を投げ出し目を閉じる。 も~、やってられない!! おっとはそんなわたしにねぎらいの言葉ひとつなく、わたしも腹が立っていたのでお礼の言葉もなく、おっとはさっさと独りで昼食をかき込んで仕事に戻っていったのである。 残されたわたしは1時間ほどソファでぐったりした後、やっと体力を取り戻した。 が、もう肩と腕と手に力を入れすぎて、筋肉痛であちこちがズキズキして辛い。 ズキズキするといえば、縛り付けられた左足もそうである。 看護婦は「家で調整してちょうだい。」と言った。 ということは、勝手にはずしてもいいのか? おそるおそるはずすと、うっ血してボンレスハムになった足がむきだしになったのであった。 ボロボロにむけた皮膚を消毒薬でそっとふき取り、元に、もっとゆるくドンジョイを巻く。 試しに立ってみた。 なんかが違う。 もう一度はずしてまた着け直す。 まだなんかが違う。 またもう一度、やり直す。 こうして日記を書きながら、エンドレスのドンジョイ着けなおし作業は今なお続いているのである。。。。。涙 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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