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2006.09.20
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カテゴリ:戯言

kanzakigawa

 

十数年前、私はここの河川敷を毎日通っていました。

思うところあって、というかぼろぼろになってスーツを脱いだ頃でした。

しばらく引きこもりのような生活をした後、

パン工場で夜勤のアルバイトをしていたのです。



ネクタイをしていた時は、毎朝同じ時間に同じ顔とすれ違っていましたが、

夜中や早朝のここでは、実に様々な人間模様に触れました。

定時制高校に通う若者にこき使われた後、

くたくたになって自転車で走る河川敷には、

満員電車の中にはいない顔がいっぱいでした。



出社・登校前に、早朝の釣りを楽しむ父と息子。

うらやましい光景でした。

シンナーでラリる女の子もいれば、

ジョギングしながら

「おはようございます!」

と挨拶してくれた見知らぬ女子高生もいました。

散歩する老人の後姿に父の背を見たときは、涙が出ました。

道端に咲く、名も知らぬ小さな花の香りに癒されました。

そのどれもが一度きりの「出会い」でしたが、

ひとりだけ毎晩出会う人がいました。



出会いと言っても、真っ暗な川の対岸にいた人なので、顔は見えませんでした。

ギターの弾き語りをする外国人女性の歌声が、毎晩聞こえたのです。

川の対岸からでもよく聞こえる声量とカーリー・サイモンのような低い声で、

いつもリンダロンシュタットの曲を歌っていました。

いつか対岸に行って、

リンダロンシュタットかキャロル・キングの曲をいっしょに歌ってみたいと思っていました。



こうして今あの頃を思い出し、

小豆色の電車を眺めながら「イッツ・トゥ・レイト」を口ずさんでみたのです。

対岸に来るだけなのに、ずいぶん遠回りをしてしまいました。






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Last updated  2006.09.21 05:14:28
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