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カテゴリ:がちがちハードボイルド
「邪魔」「最悪」に続く奥田英朗の〈ドン詰まり系〉小説を読んだ。
○ストーリー 3つの町が合併して誕生した東北の地方都市・ゆめの市を舞台に,限界まで追い込まれた人々の生活が描かれる。相原は,市役所の社会福祉課で,当然のように生活保護を申請する人々に追われているが,ある人に恨みを買ってしまう。史恵は,東京での大学生活を夢見る女子高生だが,事件に巻き込まれてしまう。裕也は,漏電遮断機のセールスマンとして働いていたが,暴走族時代のしがらみに引き込まれる。妙子は,スーパーの警備員をしていたが,新興宗教同士のいさかいで全てを失う。山本は,甘い汁を吸うことだけを考えている有権者の面倒を見ようとして,犯罪に加担してしまう。彼らの運命は,ある雪の日に転換点を迎える。 ------------- 500ページを超えるハードカバーで,とにかく沈うつな内容だ。昨日1/3を読んで,あと2日かかると思っていたが,今日読み終えてしまった。 中盤以降は,5人の主人公のめぐり合わせの悪さが加速して,どんどんと悪い方向に進んでしまう。それぞれがそれほど突飛な行動を取っているワケではない。過去はどうあれ,そこそこ真面目に生活をしているのに,なぜか選んだ結果が裏目に出る。 とにかく読み始めると,もう目が離せない。行きの電車,出社してから,昼休み,そして帰りの電車で,読み終えることが出来た。 ------------- 光っているのは圧倒的な説得力だ。主人公の置かれている状況,取る行動,周りの人への気持ち,全てにリアリティがあり,納得をさせられてしまう。 ふと冷静になって見れば,救いの無い状況の物語であり,心がふさいでしまうのだが,それでも物語のチカラとでも言うものに駆られて,どんどんと読み進んでしまう。 〈伊良部シリーズ〉のような,派手なサービスや,ほろっとする人情も無い。ネガティブばかりの物語なのに,ゆるぎないドライブ感に気持ちよく乗せられて最後まで読んでしまった。 ------------- とは言え,物語としての完成度では,奥田英朗の作品で同じような空気を持つ「最悪」に負けていると思った。 「最悪」では,追い込まれていった主人公たちが,ある事件をきっかけに出会い,そして緊迫した関係になり,という〈起承転結〉があったが,今回の「無理」では,彼らが出会うのは物語のラストシーンだけだ。 それぞれの物語は,よどみなく語られたのだが,彼らが一堂に会することによって始まる〈起承転結〉の〈転〉が存在しなかったのは,やはり物足りなかった。 ------------- なんだか同じ地方都市を描いていても,恩田陸は高校までの思い出の土地でしかないし,辻村深月は東京で大学を過ごした女性はいばれるということを語っているだけだし,奥田英朗から決定的なダメ出しを出されてしまうと,他人ごとながら落ち込んでしまうな。 地方で県庁所在地ではない町って,確かにこのままではジリ貧だと思う。パチンコ店と大型量販店ばかりが幅を利かせる状況はもう変わらないと思う。 あとは少しでも雇用が進むことだけど,うまく企業を誘致して,車の部品だったり,半導体だったり,カツラだったり,コールセンターだったり,特殊性を出して生き残るしかないと思うな。 いろいろあるけど,そんなところ。小説としては,久々に没頭できた。読者を選ぶけど,オススメだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.09.27 21:53:05
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