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カテゴリ:がちがちハードボイルド
最近では一番のオススメ作家・月村了衛の長編を読んだ。
〇ストーリー 日本に潜伏中のウイグル人団体を,明日の朝まで保護し,アメリカ大使館員に引き渡せ・・女性ジャーナリスト・仁科曜子は,調査中に事件に巻き込まれ,中国政府が送り込む特殊処理部隊に襲われる。中国との政治的な取引で,日本の警察は全く保護をしてくれず,彼女たちを救ったのは,日本のヤクザと〈カーガー〉という謎の男だった。逃亡を続ける彼らと追っ手は,川崎で全面対決となる。翌朝に生き残ったのは? --------- 無口なプロと思わせていた〈カーガー〉が,滔々と自分の過去を語る。それに触発されたのか,武闘派ヤクザも自分の罪を語る。 いや,さすがにそうした自分語りはちょっと置いておいて,中国の特殊部隊と戦おうよ。この世界では,誰もが自分の過去を語ることがルールなのだろうか? --------- 中国の〈新疆ウイグル自治区〉に対して批判的に切り込んで行くという,せっかくの大きな構成なのに,登場人物たちがそれに釣り合っていない,というのが正直な感想だ。 また過去がそのまま現代につながる方式が安易過ぎてゲッソリした。登場人物の8割が過去編の人。無いわ。 --------- 「土漠の花」でも,「槐」でも,主人公にひじょうに不利な設定をベースに,単独の長編を展開してくれた月村了衛の手腕はよく分かっているつもりだが,この作品ではどうしても擁護出来ない。 まずは主人公ポジションが,ジャーナリストの女性・仁科と謎の男〈カーガー〉に分かれているのが良くない。物語の導入として,現実の我々に近い仁科がフォーカスされるのは当然だが,徐々に〈カーガー〉が主人公となり,仁科は申し訳程度に難民の少年と仲良くなり終わる,というモヤモヤ的な結末だ。 他の長編では,主人公チームがいて,そのチームが巻き込まれる悲劇的な状況と,彼らがなんとかそれを打開する方策がバランス良く描かれていたと思う。 倒れていく日本のヤクザ,守られているウイグル人団体・・・そのどちらにも属さない主人公たち。どうしたらこの作品が心に響く作品になるか?ワリと分りやすいとは思う。このままではダメなのは明解だ。 --------- 月村了衛にもダメ作品はあったので,これがワーストというワケではないが,導入のハードっぷりから比べると,終盤のダメさ加減のギャップは過去最大だったと思う。 せっかくのウイグル民族差別ネタを,この空振り長編で使ってしまったのは実にもったいない お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.05.10 22:02:57
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