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カテゴリ:きらきらポストモダン推理
ジェットコースターサスペンスの旗手・木下半太の長編を読んだ。
〇ストーリー 離婚し娘を姑に助けられながら育てているビジネスウーマンの理々子。彼女は終電を逃した渋谷のバーで柴田という男と隣り合わせになる。そこで彼が恋人・明日香を刺殺した冤罪で服役していた〈極楽プリズン〉と,明日香が死ぬ運命を覆すために繰り返した過去へのタイムスリップの話を聞かされる。その奇想天外な物語はいつしか理々子にも関連をしてきて・・・ ーーーーーーーーー ちょっと犯罪めいた状況があり,それに加担していた人物が次々と危険な目に遭う,といういつものジェットコースターサスペンスとは違う展開となっていた。 これまでの作品だとどれだけ危険な状況があっても,基本的な世界観はリアルだった。途中の解決策が脱力するようなシュールな展開であっても,まあそんなものかと赦せた。 今回の作品では複数の登場人物に特殊な能力がある。その能力ですすっと事件の解決が来るほど物語は単純ではないとは言え,「あ,こんなルール違反ができてしまうんだ」という感覚があると,どうも作品のバランスが崩れる気がする。 ーーーーーーーーー この作品は面白いし,主人公たちの前向きな姿勢は悪くないと思うのだが,やはりいくつかの欠点が目立つ。 まずは語り手が一定しないこと。渋谷のバーの謎の男・柴田,主人公・理々子,そして理々子の元夫と,作品の中で語り手が移り変わるので,前向きなテーマ以外に達成しようとされる目的が見えない。 次にすでに書いたがファンタジック,あるいは超自然的なチカラが作品内部で描かれていることだ。このため登場人物たちの危機が生じても,あまり緊張感が保てなくなる。 そして最後が,いろいろな展開があるのに多くのシーンで解決が語られないことだ。ベタでリアルなトラブルが発生して事件が起きるのだけれど,「これは運命」みたいな視点があり,その後に来るべき事件の解決には力が注がれない。 ハチャメチャだけどリアルという木下半太ワールドから,そこそこ真面目だけれどリアリティがないという新しい世界観に変わってしまった気がする。 ーーーーーーーーー 相変わらず21世紀の作品なのに1990年頃のバブリーな空気を漂わせ,長編を楽しく引っ張る筆力は見事だと思う。 次回作にも期待をしている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.12.08 21:33:45
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