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2020.07.14
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恩田陸の短編集を読んだ。

〇ストーリー
雑居ビルの壁,トンネルの天井,道路を渡る配管,たまたま存在するそうした物体のおかげで,普通の風景が映画のようにフレームを与えられることがある。だがそれを観ている人々は,その中に風景以上のものを見出す。少年は飼い犬との思い出を,女性はつらい災害の景色を,老夫婦は昔のお祭りの風景を観る。そこで〈私〉が観るものとは・・・


ーーーーーーーーーー

恩田陸作品を全部読破している立場として,この短編集を読んで感じたのは安心感だ。

未完成を平気で読者にぶつける作者,それが恩田陸だ。「蜜蜂と遠雷」はたまたまの場外ホームランで,いつもはファウルか二塁打打ってます,バッターみたいなのが恩田陸だ・・・という比喩も昭和的であまり理解されないんだろうね。

この短編集で感じたのは,直木賞を取ろうとも,恩田陸作品のある意味不親切で,排他的なカラーは変わらないんだな,ということだ。

やや饒舌過ぎる感のある最近の作品と比べて,今回の作品のつっけんどんな感じに,ひどく安心をした。


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この作品に収録された短編は,5年から7年の執筆期間の差がある。

それだけでなく,恩田陸がミステリーやホラーを書くということさえ知らない読者もいるだろうから,この作品が作者の執筆する作品領域の広さを示すモノサシとして機能することを望む。

読んでも読んでもモヤモヤが残る恩田陸ワールドへ,ようこそ。


ーーーーーーーーーー

各編について簡単に感想を述べる。

「線路脇の家」:思い出したのはたまに行く先の線路沿いの家で,ずっと同じ部屋にいる人々だった。数年後,たまたまその町を再訪し,〈私〉が知ったこととは・・・さすが恩田陸,まずは”視界”の記憶から入ってきた。不思議な状況,謎解き,その後にプラスアルファを提供できるのが驚きだ。


「球根」: 天啓学園を訪ねたレポータとその運命・・・〈麦の海〉ではないにしても,萩尾望都風のギムナジウムは恩田陸作品で繰り返されるモチーフだ。仁丹は怖くなかったけれど,それが地中にびっしり埋まっているのは怖いね。


「逍遥」:  康久,喜良,十時の3人は,イギリスの地方の町の散策路で消えた懐中時計の謎にチャレンジする。・・・「消滅」については記憶がほぼ無いのだが,この短編の空気は楽しめた。ちゃんと謎解きがあるのはいいね。


「あまりりす」: たまたま拾われたメモリーに記録されていたのは,ある村の秘密だった・・・もどかしさを含めて巧い短編だとは思うのだけれど,ネットの投稿みたいなのはマイナスだ。


「コボレヒ」: 友人は木漏れ日を必要以上に畏れていた。・・・木漏れ日,コモレビという単語から膨らました短編だ。日常とホラーの境界線が低い。


「悪い春」:2020年代へと時代は進み,ボランティアで数年を過ごすのが,就職を目指す若者の必須な行為になりつつあった・・・かなり微妙な短編だ。企業に就職するためにボランティア的な兵役に就くことは批判しつつも,その効用も認めているような内容。どっちなの?


「皇居前広場の回転」:皇居の前の広場で,美しい少年が踊っていた。・・・作者がそれを実際に観たのか,これが新しい長編のスタートポイントなのかは分からない。長編につながりそうな,びりびりとしたチカラ強さは感じた。


「麦の海に浮かぶ檻」:人里離れた学園に来た儚い少女が抱えていた秘密とは?・・・「麦の海に沈む果実」のスピンオフであるし,別の短編集で読んでいた。これもかつての恩田作品ワールドの一部に属するので,出来れば巧く処理してもらいたい。


「風鈴」:〈僕〉の祖父母に家には不思議な風鈴があった・・・風鈴というダミーワードを通じて,意外性の世界へと連れて行く手法だ。

「惻隠」:〈私〉から見た人間どもの愚かな毎日とは?・・・尻尾は何本あるんだよ?2本だけだと思っていた。


「楽譜を売る男」:〈私〉が目にしたのは,恩田区イベントに合わせたデータを,きちんと提供してくれるヨーロッパ人だった。・・・現実はなかなか難しいけれど,いろいろ詮索して空想するのが楽しいはず。


「柊と太陽」:兵士2人は,クリスマスの夜に,いろいろと考えを巡らせる。・・・このあっけらかんとした感覚が日本人の宗教に対するものかも知れない。この後も,先鋭的にならなかったことを望む。


「はつゆめ」:彼と彼女が出会ったのは,互いに見ている夢が解読できたからだった・・・『君の名は』を想起させるのだけれど,出だしからどこにも行けない。商店街の人々には叱られたけれど,どっちにいくんだろうか?


「降っても晴れても」:学生街をゆったりと歩む海外留学生・日傘王子は有名だった。彼の死をきっかけとして・・・平凡な顔をしている自分としては,王子扱いは身分違いでコメントしづらいなあ。一定の謎解きがされたのは良かった。でも解けない謎は残るのが恩田陸作品か?


「ありふれた事件」:無職の男が銀行で人質を取り,最後に1人だけ傷付けてしまった。現代ではありふれた事件とも言える内容だが,巻き込まれた人たちは一様にあることについて述べることを避けていた・・・ある時期の恩田陸作品の定番的な味わいの短編で,個人的には好みだ。これは怖い。

「春の祭典」:国際的なバレエダンサーとして成功した〈彼〉について覚えていることは,ある初夏の日,誰もいない教室で〈彼〉が一人で佇んでいたことだ。〈彼〉は綺麗な動きで両腕を上げ,そこで止まった。・・・あとがきによると,バレエをテーマにした長編のための試作のようだ。「蜜蜂と遠雷」のように大作に育ってくれるとうれしい。


「歩道橋シネマ」:雑居ビルの壁,トンネルの天井,道路を渡る配管,たまたま存在するそうした物体のおかげで,普通の風景が映画のようにフレームを与えられることがある。だがそれを観ている人々は,その中に風景以上のものを見出し・・・表題作は短いけれどもインパクトが強いものだった。例によってオープンエンドなのだけれど,いろいろ幸せについて考えてしまう。いいね。




 





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Last updated  2020.07.18 17:37:47
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