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テーマ:お勧めの本(7220)
カテゴリ:小説
突発性難聴と診断されて、早10ヶ月になろうとしているが、未だ治らず僕の右耳は真夏のような蝉しぐれが聞こえてくる。早期治療と医者は云った。その判断に従って3月に入院したがステロイド治療は僕には合わなかった。身体の調子が悪くなっただけだった。だいたい医者にもよく原因が分からないみたいだ。これは治るのだろうか・・・。まぁ治らなくても仕方がないか。 僕はいつでも藤沢周平の『蝉しぐれ』のあのシーンを思い出すだろう。大八車に無念の死を遂げた父を乗せ、坂道を上る場面だ。蝉の鳴き声がまるで雨のように牧文四郎に降り注ぐ。涙をこらえて必死に大八車を牽く。その後ろには幼馴染のふくが非力ながら手伝って押していくのである。『蝉しぐれ』の中のこの場面は、いつまでも僕の心に残っている。涙に霞んだ文字の一つ一つを噛みしめるように読んだ、行き場を失った僕の感情は嗚咽という最も分かりやすい形の心象を残したのだ。今思い出しても悔しくて、哀しくて涙が溢れる。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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