戦争は、拡大と変遷を通して資本主義を加速することに関しての最近の現象として理解されるべきではない。 というのは、これは資本主義の歴史を通しての一貫したテーマであった。 『過剰帝国主義』という観念は、資本主義内の戦争と軍国主義の機能・役割を表すものである。 この概念は、『絶えることの無い戦争』の機能に基づいて形成される。
エレン・ウッドは、『過剰帝国主義』の観念を次のように説明している。 「グローバルな経済およびそれを管理する多数の国家の境界の無い支配は、目的や時期に適合して、終わることの無い軍事行動を必要とする。」[13] また、「グローバルな資本主義経済における帝国支配は、競争を抑圧することと、市場と利益を生み出す競合経済状況を維持することとの間で、微妙な相反するバランスを必要とする。 これは、新世界秩序の最も基本的な矛盾の一つである。」 [14]
ジョージ・ブッシュ・シニアが1991年に「新世界秩序が見えてきた」と宣言してから間も無く、合衆国の戦略集団は世界における合衆国のた めの新しい戦略を述べ始めた。 その最初は、1992年の国防計画指針に表されたものである。 ニューヨーク・タイムズがそれを公表したのであるが、次の ように報じている。 「一般新方針声明の最終草稿において、冷戦後の時代におけるアメリカの政治的軍事的な使命は西欧、アジア、あるいは以前にソ連であっ た地域にライバルとなる超大国が出現しないようにすることになるであろうと、国防省は主張している。」 そして、「その機密文書は、アメリカの卓越性に挑 戦する国家または国家連合を思い留まらせるための建設的な振る舞いと十分な軍事力によってその地位を永続化され得る一つの超国家によって支配される世界を 擁護している。」
この方針を草案した主要人物はペンタゴンの政策担当国防次官ポール・ウォルフォウィッツで、彼は後にジョージ・W・ブッシュ政権において国 防副長官となり、世界銀行総裁にもなった。ウォルフォウィッツもまたビルダーバーグ会議、三極委員会、外交問題評議会のメンバーであり、現在はネオコンの シンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ研究所の研究員である。
その文書は、「もし必要ならば、北朝鮮、イラク、ソ連崩壊で生まれた諸国や欧州の諸国における核兵器と他の大量破壊兵器の拡散を防止するた めに軍事力を使用すること」、および「最も重要なことは、『世界秩序が合衆国によって完全に支えられるという意識』であり、迅速な対応が必要となれる場合 や、『集団行動がお膳立てされ得ないときに、合衆国は単独で行動する態度を取るべきである』」ということを強調している。 また、「新しい草稿は唯一の強 力な軍事力が存在する世界をスケッチしていて、そのリーダー達は『潜在的な競合者がより大きな領域、すなわちグローバルな役割を切望することさえ思い留ま らせなければならない。』」 アメリカの覇権に対する避け難い挑戦の中で、その文書は「イラクおよび北朝鮮との地域戦争を想定している。」 そして、中国 とロシアをその主要な脅威としている。 その文書はまた、「合衆国は、サウジアラビア、クエート、およびペルシャ湾沿いの他の諸国に展開したものと同様の 安全保障を東欧および中欧諸国に展開するかも知れないと示唆している。」[15] この文書が書かれた当時の国防長官は、ディック・チェイニーに他ならない。
1993年に大統領がジョージ・ブッシュ・シニアからビル・クリントンに代わったとき、ブッシュ政権でのネオコンのタカ派は新しいアメリカ の世紀のためのプロジェクト(PNAC)というシンクタンクを立ち上げた。 2000年に彼らは、アメリカの防衛再構築 ―新世紀に向けての戦略、軍備、および資源― というレポートを発行した。 防衛政策指針を足場として、彼らは「合衆国は迅速に展開できて、大規模な同時多発戦争に勝利できるだけの十分な戦力を維持しなければならない」[16]、 そして、「多発するほとんど同時の大野戦を戦い勝利するに十分な戦闘力を保持する必要性がある」[17]、そしてまた、「ペンタゴンは欧州、東アジア、湾 岸にける合衆国の利権をいつも独立して守るために必要な軍事力を計算し始める必要がある」[18]と述べている。 更にまた、「合衆国は数十年の間、湾岸 地域の安全性においてより永続的な役割を演じようと努めてきた。 イラクとの未解決な紛争がさしあたっての正当性を与えているが、湾岸において十分なアメ リカの軍事力の存在する必要性はサダム・フセイン体制の問題を超えている」[19]とも述べている。 軍事費の大幅増加、軍事力の迅速な拡大、およびイラク、北朝鮮、イランのような脅威との『付き合い』の必要性を述べるにおいて、彼らは「たとえ革命的な変 化をもたらそうとも、変化のプロセスが長期のものになりそうである。新しい真珠湾のようなある壊滅的な触媒的出来事がないならば。」[20]
デイヴィッド・ロックフェラーとともに三極委員会を創設し、前の国家安全保障顧問で、ジミー・カーター政権における重要外交政策考案者で あったズビグニュー・ブレジンスキーがアメリカの戦略的地理学についての本を書いている。 ブレジンスキーは外交問題評議会とビルダバーグ会議のメンバー でもあり、アムネスティ・インターナショナル、環大西洋評議会、国民民主主義基金の一般メンバーでもある。 現在、彼は主要な合衆国シンクタンクである戦 略国際問題研究所の役員で顧問でもある。
1997年の著書『壮大なチェス盤』において、ブレジンスキーは世界におけるアメリカの戦略を概説している。 彼は次のように書いている。 「アメリカにとっての地政学的な目的物はユーラシアである。 半千世紀の間、世界の出来事は、地域支配のためにお互いに戦い、グローバルな力を広げた ユーラシアの勢力・人々によって特色付けられた。」 また、「アメリカがユーラシアにどう『対処する』かは重大である。 ユーラシアは地球最大の大陸であ り、地政学的に軸をなしている。 ユーラシアを支配する勢力は、世界で最も発展し経済的に生産性のある地域のうちの2/3を支配するであろう。 地図を眺 めただけで、ユーラシアの支配はほとんど自動的にアフリカの従属を伴うであろうことが分かる。」[21] ブレジンスキーは次のように説明している。 「家庭の安楽な生活に関する大衆感覚に対する突然の脅威や挑戦という状況を除いて、一般民衆の情感を制する力 を行使することはできない。 その努力において必要とされる経済的献身(すなわち防衛支出)および人身御供(職業兵士の死傷者数)は、民主主義的直感に適合しない。民主主義は帝国的な 戦時体制化に不都合である。」[22] ブレジンスキーはまた、イランと多分パキスタンとも協同するロシアと中国を、合衆国の覇権に挑戦するかも知れない最も重大な連合と略述している。
ジョージ・W・ブッシュ政権において、ネオコンの戦争強硬論者は彼らのアメリカ帝国戦略文書に述べられた計画を実行した。 これがブッシュ主義を作ったのであって、それは「『潜在的な敵国が合衆国の軍事力を超えるかあるいは匹敵しようとして軍備を増強することを思い留まらせる に十分なだけの軍事力を我々が保持するであろう』ことを確実にするために、国際的な協調があろうとなかろうとも、いつでも何処でも先に攻撃する一方的で排 他的な権利」[23]を求めるものであった。
2000年にペンタゴンはジョイント・ビジョン2020と呼ばれる文書を発行したが、それは将来の国防省の青写真として『全スペクトル支 配』と彼らが名付けたものを達成するための計画を概説したものである。 「全スペクトル支配とは、如何なる敵国をも打ち負かし、軍事行動における如何なる 状況をも支配するための、単独もしくは連合国と共になっての合衆国軍の能力を意味する。」 そのレポートは、「核戦争から大規模戦域戦争、より小規模な偶発事件に至るまでの様々な紛争に対する全スペクトル支配について言及している。それは、平 和維持や非戦闘的人道的解放のような無定形な状況にも触れている。」 また、「グローバルな情報網の発達は決着優先の環境を与えるであろう。」[24]
国境の無い境界線での見えない敵との戦争、すなわち真にグローバルな戦争としてのテロとの戦いは、アメリカ帝国の絶えざる戦争『過剰帝国主 義』の発展において重要な段階を表している。 合衆国の軍事力は、過剰帝国主義の乗り物として使われる一方で、NATOを作り、維持し、拡大してい る。 NATOは世界でのその役割を拡大している。 ソ連崩壊に続くユーゴスラビアでの戦争は、NATOの継続的存在を正当化するために使われた。 そし て、それはソ連に敵対する同盟を結ぶために創造されたものである。 ソ連が消滅したとき、グローバルな警察になるという新しい使命感を見つけるまでの一時 的なことであるが、NATOの目的も消えた。 NATOはアフガニスタンでの最初の重要な戦争を行い、東欧へのその拡大はロシアと中国を包囲している。
NATOの合衆国代表であり、またブルッキングズ研究所の上席研究員で外交問題評議会のメンバーであるアイボ・ダールダーは、フォーリン・ アフェア誌に記事を書いていて、そこで彼は『現代のグローバルな挑戦』に取り組むための『グローバルなNATO』を提唱している。[25] 2009年4月に、NATOは「変化している安全保障環境に対して適切に留まるために」、その戦略構想を見直し始めた。 そして、「NATOの将来の作戦 行動における大きな変化を意味するであろうNATOに対する新しい脅威として、指導者達はサイバー攻撃、エネルギー保障、および気候変化を予想してい る。」[26] 2008年以降、NATOはその戦略を構想し直してきており、先制核戦争を擁護する主義へ動いてきている。[27]
ジョージ・オーウェルが1984年に書いているように、「戦争は勝利すべきではなく、続けられるべきものである。 階層化社会は、貧困と無知を基礎としてのみ実現し得る。 この新しい意見は過去のものであるが、どのような異なる過去も存在し得なかった。 おおむね、戦争努力は社会を餓死寸前に置くためにいつも計画される。 戦争は支配者集団によってその被支配者に対して行われ、その目的はユーラシアあるいは東アジアに対して勝利することではなく、社会構造を無傷に保つことである。」