ある蕎麦屋の庭物語

乾燥ワカメのようなイシクラゲを踏み砕く。
辺りに小気味良いカリカリという音が響き渡る。
暑い。
夏が始まってまだ間もないというのにもうバテてしまいそうだ。
ホースの先端が壊れてしまって水がシャワー状に出てくれない。
思えば父が擁壁を造ったときからおかしかったように思う。
きっとセメントと砂を混ぜ合わせるときに細部に砂が入り込んでしまったのだろう。
雨が降らないのでホースで水遣り。
勢いが強すぎて土を抉らないように調節するのが難しい。
ホースが届かない場所はジョウロを使う。
入口横の花壇まで小走りで水を運ぶ。
水を遣っている間は、ホースからの水が出たままになるのでのんびりしちゃいられねぇ。
違う植物の株元に水が行き渡るように、戻るたびにこまめにホースの先を動かす。
ジョウロに水が貯まるのを待つ時間も焦れったい。
蚊に刺されないように着ている長袖を今すぐ脱ぎ捨てたい。
汗が止まらない。
これが夏の間中続くのか。
少しでも水分の蒸発を減らそうとソバ殻でマルチング。
効果の程はいかに。



ムラサキシキブの花。
小さくてシベがツンツン出ていて可愛らしい。
花も紫なら実も名の通り紫。
深まった緑の葉に影が色濃く映る。