Que sera, sera

iPS細胞なんかも含めて、医療はどんどん発達し、
治らないと考えられていた病気の治療にも光が見えてきたりする
このごろ。


でも、ふと、考えるのです。

終末期医療は進歩しているのだろうか？と。

効果の高い薬、栄養を補うための栄養価の高い点滴、
先進的な医療技術や医療機器の発達。
医学はどんどん進歩しています。

この病気が治りさえすれば健康な生活を営むことができる、
という患者さんには、医療の高度化は当然歓迎されるべき
ことです。


でも、どんなに医療が高度化しても、人はいつか終末を迎えます。

もうこれ以上の改善が見込めない、という状態になったとき、
それでも先進的な技術を駆使して延命措置をはかることが、
本当に患者さんの幸せにつながるのだろうか・・・？


もう５，６年くらい前になるのですが、
お父さまの介護をしていた友人が、ぽそっとつぶやいていた言葉が
忘れられません。

「今はねぇ、人はなかなか死ねないのよ」

そしてこう続けました。

「父は今ね、私たちのために生きてくれているの」

私も自分の父が倒れて意識を無くしたまま入院状態になったとき、
その言葉の本当の意味を知りました。


延命する技術がある以上、医師が家族にその可能性を示して
「どうされますか？」
と選択を委ねたとき、家族は延命措置を取らないで下さい、とは
なかなか言えません。

そんな技術がなかった時代には、すべてを天に委ねることで、
残された人たちは納得して故人を見送ることができたのに、
助かるかもしれない道があるとわかった以上、これ以上助けないで下さい、
という選択は、よほどのことがない限りできないのです。
医師も、そこに施せる技術があるのに、「後々のことを考えたら大変だから、
今ここで治療をストップしましょう」とは言えないのです。

私の父の時もそうでした。
ちょっと昔なら、倒れたその日にそのまま天に召されたであろう病状
だったにもかかわらず、運び込まれた病院が先進医療を実践している
病院だったために、一命を取り留めました。
でも、せっかく助かった命なのに、今度は、現行の医療制度によって
３ヵ月に１回の転院を余儀なくされ、病状はどんどん悪化していきました。

最後は、完全に回復の見込みがなくなったところで、
ご自宅で介護する方向で、という話に。

高度医療によって助けられた命が、
医療制度によって粗末に扱われる現実。

そこに命を助ける技術がある以上、医師は最善を尽くしたいと思うでしょう。
家族も一縷の望みを託すでしょう。

でも、助かった命をどうケアしていくのか？
誰もそこまで考えていません。
あとは家族でなんとかして。これが今の医療制度です。

医療が発達したために起きてしまった矛盾。


ただ一つ。

いったん救われた父の命は、
私たちに、心の準備をするための時間をくれました。
生と死の決定的な違いを、私たちに教えてくれました。

そして、
父はまるで何もかもお見通しだったように、
数年間、意識が無いながらも力強く生き延びてくれて、
家族が「もう限界かも」というところに達したところで、
灯火がふっと消えるようにすぅっとあちらの世界へ旅立ちました。

もし、倒れたその日に、あっという間に旅立ってしまっていたら、
残された家族は父の死を納得して受け入れることができただろうか？
数年間でも徐々にお別れする時間を持てたことに、感謝すべきでは
ないだろうか・・・？


だとしたら、それは高度医療のおかげだったんじゃないのか？




答えが見えないまま、

もうすぐ父の一周忌です。