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テーマ:本のある暮らし(3190)
カテゴリ:展覧会
写真家・松本典子の個展へ行く。春休みなのでゼロをリンとキイに預けて行けるのがありがたい。きれいなものを見ると興奮する走り回る触りたがるでは、美術関係は当分連れていけない。
外苑前のオーパ・ギャラリー。先日出たばかりの松本さんの新刊写真絵本『うさぎうさぎこんにちは(「こどものとも0.1.2」2011年3月号)』が近場で手に入らなかったので(なにしろ「こどものとも0.1.2」は本来は定期購読でしか買えない月刊誌。大型書店でもバラで扱っているとはかぎらない)、先にクレヨンハウスに寄ったものの、売切れ。普通は前号はもう少し残ってるものなのだけれど(平積みの4月号はもちろん、1月2月も棚にあった)。評判いいのかな? だといいな。兎年だし。 実はクレヨンハウスに行くのは10年ぶり以上で(昔リストを提供していたコミックコーナーがなくなっていた)、目当てにしていたモリハナエビルが工事中だったのでちょっと迷って表参道を行ったり来たりしてしまった。他のお店もいろいろ様変わり入れ替わりしてるしね。そのかわり、初めて行くギャラリーはすぐに見つけることができた。記憶より地図を読むほうが得意な女なのだ。 3・11以降の開催とあって、規模縮小。「はなのにわ」というタイトルにふさわしく、ギャラリーの壁が花の写真でいっぱいになるはずが、特に主張の強い3点に絞っての展示。一つの壁面に一輪の花。けれどそれが却って効果をあげていたように思う。広いというより大きな余白が、それぞれの花の世界を無限に広げているようだった。飾るはずだった他の写真はファイルで見ることができた。『うさぎうさぎこんにちは』所収のうさぎ写真も別ファイルで。 蓮、ノニ、朝顔の3点の花の展示の中では、赤紫の朝顔に注目。つぼみの螺旋が迫ってくる。高校時代の彼女のイラストも、いつも螺旋が印象的だった。ノニの白い花、陽光をあびるつつましくもけなげなたたずまいに、見ているこちらの身の内も一緒に照らしてもらえるようで。ノニと言えば健康食品のチラシでよく見るが、あの宣伝文句より100倍効いた。松本さんの植物の写真はいつも、しっとりと潤っていて、ひそやかな息遣いさえ聞こえてきそうなところが魅力。なまめかしさという方向には行かず、いのちそのものが息づいていて。 4月に出る新刊(こちらは写真集)『野兎の眼』の初校のゲラも手にとってみられるようにしていてくれたので、椅子を借りてじっくり拝見。他のお客とちょうど入れ替わりだったので、この空間をひとり占めできる至福。10年間、一人の女の子を撮り続けてきたという、なかなか無い企画。奥吉野の秋祭りで偶然見つけた14歳の少女にあなたのこれからの十年を撮りたいといった写真家もすごいが肯った少女もすごい。終わりのほうのページには、母となった少女の生んだ幼い娘も写っている。少女の力あるまなざしも印象的だが、合間にはさまれる奥吉野の豊かな自然、花や空がまた美しかった。いのちの輝き。 あまりに素敵だったので、写真集の予約申し込みを記入しかけたところへ写真家さんご本人のご来場。「お久しぶりです!」と変わらぬ可愛らしい声で挨拶してくれた。直接顔を合わせるのは14,5年ぶり? 迷った末の開催と展示の規模の縮小から、震災の前後でがらりと変わって見える世界のこと、高校時代にみんなで勉強した原発のことなど、いろいろお話することができた。子どもを守り育てていくために、とりあえずできることからとにかくしようという気持ちになりやすい私と違い、自分の素肌で直接世界を感じとっている彼女の心の中の水はまだ波立っているようだ。今の私のようにお母さんを第一義に生きていると、自分ではなく子どもの皮膚感覚ごしに世界に対しているようなところがあるから、ざわめきやまないものが肝臓の奥にあったとしても、とりあえず横に置いて動けてしまう。良し悪しではなく立場の違い。…私が歌を詠めなくなっているのもそこのところが大きいのか? 今だったらもう少し写真の数を増やせたかもしれないけれど、とそれでも少しずつ変わってきた心持をもうかがった。私がギャラリー・オーナーだったら、1日1枚ずつ増やしてみる?と提案していたかも。それはあまりに鬼な編集者視点なのでその場では言わなかったけれども。 『うさぎうさぎこんにちは』の製作秘話も。さすが福音館、3年近くを費やせたのか。主人公うさぎが緑の海にとびこむ1枚がなかなか撮れず、ぎりぎりまで粘ったこと、編集さんに幼い子むけの言葉づかいを教わりながら二人三脚で文章を練ったことなど。小さい子の生体リズムに合ったいい文になっていると思う。文庫でちびさんたちの反応を拾ったらのんちゃんにお知らせするとしよう。ここで販売もしていたので、1冊買って文庫用にサインをお願いする。このページなんか、気に入った子はチューしたりほっぺすりすりしたりすると思うよーと言えば、気に入り過ぎたお子さんが噛んだりなめたりしすぎてもう1冊買いに来たお母さんがいたそう。愛される幼児絵本ってそうなのよ! まだ楽天では予約が始まっていないけれど、アマゾンでは扱いあります新刊。写真集なんでお値段張りますが、いいです。 松本典子写真集『野兎の眼』 単行本: 96ページ 出版社: 羽鳥書店 定 価: 3570円 発売日: 4月18日 跋 文: 飯沢耕太郎「共感覚の震え」 『うさぎうさぎこんにちは』は福音館のページでご覧下さい。アマゾンではひこ・田中さんがこの絵本の意義を☆4つつけて解説してくれてます。 ロングセラー『うさぎじま』は今年1月の記事でとりあげています。 ギャラリーを出て、表参道沿いに駅へ向かう。いつもなら群衆という無機な塊に見えがちな行き交う人々がみな、それぞれの場所で生きている人たち、に見える。展覧会効果だ。彼女の視線を眼鏡のようにまだ借りている。松本さんは世界のまるごとをいつくしむようにして視ているのだなと、そう思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.03.31 09:07:06
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