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2007.04.09
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カテゴリ:クスリ・自己啓発
水谷修(2004)「夜回り先生」日本評論社.




夜回り先生がこれまでに出会った子どもたちのことについて書いています。

特に印象に残ったエピソードは,「落とし前」です。
ある日,横浜中華街近くのパチンコ屋裏で,店員から袋叩きにあっている少年を助けた。
不正に玉拾いをしていたそうです。
その少年は台湾人で,日本で出稼ぎした母親が日本人男性と再婚して日本で生活していたけれど,中学卒業後は進学せずにぶらぶらしていたそうです。
先生は熱心に高校進学を薦めたため,夜間高校に入学することになったけれど,暴力団に入ってしまいました。
必死の説得で彼は暴力団から抜けることを約束し,2人で組事務所へ直接出向くことになりました。

これまでに何度も危険な目にあってきたが,正直言って,組事務所へ行くのはさすがに怖かった。
私は警察ではなく,ごく平凡な高校教師である。
万が一のことがあっても,自分の身を守る手段何一つ持っていない。
私は覚悟を決めるしかなった。
しかし予想とは裏腹に,組長との話し合いは奇跡的にうまくいった。
足を洗うための条件も「少年が二度とナワバリに入らない」という軽いものだ。
難なく少年を暴力団から引き離せた幸運に,私たちは喜んだ。

でもそんなに甘くなかった。さらに一ヵ月後のことだ。
組事務所から学校に「少年がナワバリに入ったから,捕まえている」という連絡があった。なんということだ。私は目の前が真っ暗になった。でもここで逃げても仕方がない。
私はもう一度覚悟を決めて,少年が拘束されている組事務所を訪れた。
ソファに座らされた少年は,真っ青な顔で震えていた。
彼の両脇を何人もの組員が囲っている。その向かいで険しい顔をしていた組長が,苦々しく言った。
「水谷さん。こっちもメンツを商売にしている。約束を破ったら,それなりの対応をしなければいけない。いいね?」
落とし前は,私の利き腕の指一本だった。

その後少年は高校に戻り,日本の永住権を取得することができた。
そして現在は自分の店を持つことを夢見て,都内の中華料理店でまじめに働いている。
それを思えば指一本,なかなか痛かったが,安い買い物だった。

------------------------引用はここまで-----------------------------

このエピソードで衝撃を受けました。
先生はまさに自分の身を犠牲にして,子どもの命を救っていました。
そして組事務所に2人で乗り込むのも普通の先生じゃ考えられない行動だと思います。
子どもが不幸になった原因である大人の責任を,すべて水谷先生が一人で背負っているように感じます。
自分だけをかわいがってできるだけ人とかかわらないように生きている人が多い世の中にあって,ここまで自己犠牲を徹底して他人のために生きる姿はそうそう真似できるものではないと思います。
そして子どもたちに自分ができることは何なのかと考えさせられます。
それはきっと言葉ではなく,笑顔を見せてそばに寄り添うことなんだろうな。
それはきっと自分の生き様を見せて子どもに希望をもって生きてもらうということなんだろうな。

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最終更新日  2007.04.09 10:35:30
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