雇用が奪われる?◆雇用が奪われる? BRICsホワイトカラーたちの台頭
仕事のアウトソーシングで、先進国の賃金は二極化加速 世界全体で産業構造・組織構造の高度化が進むなか、有力新興国のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)においても、いわゆる「ホワイトカラー」(white-collar)が台頭するようになってきました。 ホワイトカラーとは、白いワイシャツ背広を着て精神労働・頭脳労働を行う人々を総称した言葉で、米国で使われ始めました。「中間管理層」とも呼ばれ、青い作業着を着て現場で働くブルーカラーと対比されます。 例えば、国際労働機関(ILO)の統計によって、インドの就業者に占めるホワイトカラーの割合をみると、1961年の段階ではわずか4.3%にすぎませんでしたが、その後上昇傾向で推移し、2001年には15.5%に達しました。筆者の予測では2021年には20.4%に達する見込みです。 ▼ホワイトカラーの割合が増加 南米のブラジルでも、ホワイトカラーが続々と台頭しています。ブラジルの就業者に占めるホワイトカラーの割合は1970年の段階では19.2%でしたが、直近の2004年には28.8%に達しています。 すでに、ホワイトカラーが全就労者の過半を超えている日本や欧米などと比べれば、ホワイトカラーの割合は決して高いとはいえませんが、BRICsでホワイトカラーとして働く人たちが増えていることは間違いのない事実です。 ところで、BRICs域内でホワイトカラーが台頭してくると、日本をはじめとする先進国にはどのような影響が出てくるのでしょうか。 ▼仕事のアウトソーシングで、先進国の賃金は二極化加速 これまで、先進国はBRICsを生産拠点・輸出拠点として位置づけ、製造業を中心にBRICsへ生産拠点のシフトを進めてきました。そこで必要とされたのは、人件費の安い現地のブルーカラーの人たちです。 先進国の工場で働いていたブルーカラーにとっては、国内の製造業が生産拠点をBRICsなど有力新興国にシフトすることによって、雇用が奪われるというマイナスの影響が出ていました。 そうした影響がいまや、ホワイトカラーの層にまで広がりを見せる可能性が出てきたのです。今後は、会計士や技術者、弁護士などホワイトカラーであっても、海外の労働者との厳しい競争に直面する可能性が高いといえます。 ▼「インドに雇用を奪われる!」危機募らす米国SE 象徴的な事例の1つして、システム・エンジニア(SE)の仕事が挙げられるでしょう。いま、中国やインドではたくさんのシステム・エンジニアが誕生しています。有能で、なおかつ人件費の安価な中国人やインド人のシステム・エンジニアの台頭は、競争力維持のために人件費を圧縮したい日本企業にとっては、非常に魅力的な存在といえます。 しかしその一方で、日本で働くシステム・エンジニアにとっては、中国人やインド人が自分たちの雇用・賃金を脅かす存在となります。 すでに、ITの分野でインドに大量のアウトソーシングをしている米国では、国内のIT技術者たちが窮地に追い込まれています。一般のシステム・エンジニアは「インドに雇用を奪われる!」と声高に叫び、危機感を募らせているのです。 先進国の企業がコンピューターのシステム開発などをインドにアウトソースすれば、当然、先進国で雇用されている国内のシステム・エンジニアは中国人技術者やインド人技術者との競争に勝てませんから、人件費には下押し圧力がかかり、やがて賃金は中国人技術者やインド人技術者の賃金水準に収斂していくことになるでしょう。 システム・エンジニアといえば、華やかなイメージが先行しますが、すでに日本の一般的なシステム・エンジニアたちのなかには、賃金に下落圧力がかかり、長時間労働・サービス残業(ただ働き)を余儀なくされるなど、過酷な労務環境に置かれている者が少なくありません。 その原因がすべてインドや中国にあるとはいえませんが、システム開発の海外へのアウトソーシングの加速が少なからず影響を及ぼしていることは間違いのない事実です。 ▼高度なIT技術者の給料はアップへ その一方、業務を中国やインドで代替することのできない高度なITの分野においては、労働力の不足が顕著となり、そうした業務にかかわる技術者たちの賃金には中長期的に上昇圧力がかかっていくのではないでしょうか。 その結果、どういうことが起こるでしょうか。おそらくは、他の先進国と同様に、日本においてもシステム・エンジニアの賃金が二極分化していく可能性が高いといえます。 (出典:日経BP社)
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