仕事人アジョッシの春。
私のバイトするホテルはお客のクルマが入るとメロディが流れる。こんな曲。 「春が来た~春が来た~どこに来た~♪」一年中春かよ( ̄皿 ̄;とツっ込みたくなるけど世の中、春のような天気が続く。勤めているのは全20室のこじんまりした丘の上のホテルだ。この丘の上というのがかなりのポイントで、眼下のクルマのライトの列が続く農道が美しい。少年が浜辺で沖を見ながら「バカヤロー!!」と叫ぶのが青春なら、オッサンは暗やみに光る冬の農道を見ながら腰に手を当て、 「なんでやねん」と、ぼやくのが正しい中年像なのだろう。そんなことないか。さて、お客が精算を済ませ帰ろうとすると「パプ~ン」と物悲しい音とともにランプが“精算”の表示になる。お客はマシンにお金を投入する。そしていよいよクルマが出庫する瞬間 「トッテヶチッテタ~!!!♪」 (; ̄□ ̄!と、場違いな進軍ラッパが待機室に豪快に鳴り響く。われわれ仕事人の出番なのだ。なぜ進軍ラッパにしたのか、オーナーがユーモアのセンスにあふれているのか。ここは硫黄島か。そんなことはない、ただ早く行けの合図なのだ。ニタリ顔のオーナーの口ぐせは 「もうかんないね~もー」ばかりだ。ラッパの合図のあとは掃除道具一式をかかえて、まさに夜のホテルに進軍を開始する。途中、帰ろうとするカップルと鉢合わせにならないように、悪いことをした子どものようにビクビク部屋へ向かう。いままでチラリとお客の顔を見かけたことがあるけれど、けっこう年配が多くてびっくりする。コンビニのレジで小さなサイフから10円玉1円玉をごそごそ出しては戻し、後ろにいるあんちゃんから舌打ちされそうな年代まで含まれる。ジジイって元気なんだなー、とつくづく思う。そして金もある。そして、いったい相手は誰だ?新米ラブホアジョッシのバイトはさらに続く。