テーマ:☆詩を書きましょう☆(8396)
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幻の世界
それは一瞬の幻だったのだろうか
正月は放物線を描いて舞う羽根の音 女の子は母親手作りの着物を着飾り 羽根つきに興じる 澄んだ寒空に木霊する子どもたちの笑い声
路地が子供たちの心を育んだ 花いちもんめのわらべうた 石けり 縄跳び お寺の鐘が聞こえるまで遊び興じ
欅の門構えの家から山田流の琴の音流れ 文楽の人形遣いの家から太棹の三味の音流れ それらが子供たちの協奏曲
そんな子供の天国が突然消えた 昭和一六年一二月八日 戦が始まり 花柄の着物姿が 黒っぽいもんぺ姿に変わっていき 路地裏は子供の遊び場から 防火訓練の場所になった 人々の心の襞は灰色に染められていった
そんなある日 お琴のお師匠さんの家や 人形遣いの家が建物疎開で打ち壊された 戦火の延焼を防ぐための空き地になった
路地そのものの姿さえ無くなった 懐かしい遊びの宴は 立ち昇る乳白色の埃の中に 幻のように儚く消えていった
炎に包まれた空き地の南の街は焼け野原 子どもたちが棲む北の街は 奇跡的に焼け残った
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