000000 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

わたしのブログ

わたしのブログ

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X
2018.01.31
XML
カテゴリ:

栗饅頭                

 

先の大戦が終わる前の年 昭和一九年だった

私と妹が静岡の叔父の家に疎開していた時のこと

日本の敗色が濃くなり食べるものも不足していた

チョコレート 飴 ケーキは町から消えた

子どもにとって甘いものが食べられないことは

身が干乾びるように辛いことだった

「あの雲 シュークリームのようね」

姉妹で空から雲を掬って食べると

不思議と甘い匂いと味が漂った

 

ある日母が大きな荷物を背負って東京から現れた

八畳の奥の二畳の部屋の障子の向こうの廊下に

連れて行かれ 障子はピシャリと閉められた

「これお食べ」

差し出されたものは何と栗饅頭

こげ茶色の表面がつややかに光っていた

 

遠縁の()業戦士の菓子職人から貰ったという

「叔父さんや叔母さんの分は?」

「ないから さあ早く」

いつも叔父や叔母には白いご飯や西瓜など

お腹いっぱい御馳走になっているのに

内緒で食べるのは後ろめたかった

 

「どう?美味しいかい?」

「うん とても美味しい」

母が折角持ってきてくれたものを

そうニコニコしながら云う他なかった

実は後ろめたい思いで急いで食べたせいか

味も素っ気もなかったのだ

 

母は魔法使いのようだった

神出鬼没 来て欲しい時に欲しいものを持って

私たち姉妹の前に現れてくれた

*産業戦士…技術を持った職人で軍の幹部などに製品をおさめた人。兵役は免れた。

                               byドレミ・どれみ

(詩人会議2018年3月号掲載)






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2018.02.03 18:37:54
コメント(30) | コメントを書く
[詩] カテゴリの最新記事


PR

Favorite Blog

横田めぐみさん、北… New! ただのデブ0208さん

雨になる前に。 New! naomin0203さん

栄養最強な野菜~ブ… New! ダニエルandキティさん

今日は朝から快調 New! masatosdjさん

【先週の本棚】〜 24… New! jiqさん

Calendar

Comments

Mariko@ Re:橋本篤彦先生のリサイタルを聴く(07/10) 初めまして。 20年前に橋本先生のグルー…
Mariko@ Re:橋本篤彦先生のリサイタルを聴く(07/10) 初めまして。 20年前に橋本先生のグルー…
RaymondArout@ Программа Впервые с начала операции в украинский …
Jeraldanact@ Проститутки Красносельского района Брат замминистра инфраструктуры Украины…
wmw@ Re[2]:秘密保護法は戦時中の「国防保安法」とそっくり(12/02) ボトックスマンさんへ アホ左翼は黙れ、い…

Freepage List

Keyword Search

▼キーワード検索

Recent Posts


© Rakuten Group, Inc.
X