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標高が600mを超える南アルプスの麓では秋が深まるとともに、最低気温が10℃を下回るようになりいよいよ薪ストーブの出番となった。 ストーブの上に銅製の薬缶を乗せ湯が湧いて注ぎ口から立ち昇る湯気と薪の燃える炎を見ていると、暖かいばかりでなく心が安らぐのはなぜであろうか。 飲むための湯を沸かす道具には鉄・ステンレス・アルマイトなどの金属の他、土でできたものがある。 鉄で作られたものは鉄瓶、土できたものは土瓶という。 鉄以外の金属でできたものは薬缶だが、英語では土瓶以外はケトル(Tea kettle)という。茶道で湯を沸かす道具は、缶や瓶で無く釜と呼ばれる。 土で造られたもので本体と同質の取手がついているのが「急須」で、同形のものに竹や蔓るなどで編んだ吊り手のついているのが「土瓶」である。 土瓶は直接火にかけることもでき、湯沸しとしても使われる。土瓶で沸かしたお湯はやかんで沸かした湯よりも、お茶の味が深くなると言われている。 やかんは土瓶形をした、主に湯沸かしに用いられる道具である。 薬缶のようにつるつるになった禿げ頭は、やかんあたま(薬缶頭)と呼ばれることがある。 「ちりとてちん」や「転失気」などと同工異曲の、「薬缶」という落語がある。 この世に知らないものはないと、広言する隠居をへこまそうとして八五郎が挑む話だ。 「茶碗は、置くとちゃわんと動かないから茶碗。土瓶は土で、鉄瓶は鉄でできているから。 「じゃ、やかんは?」「やでできて……ないか。」「いや、これは水わかしといった」「それをいうなら湯わかしでしょ」「だからおまえはグシャだ。水を沸かして、初めて湯になる」「はあ、それで、なぜ水わかしがやかんになったんで?」「これには物語がある。昔、川中島の合戦で、片方が夜討ちをかけた。かけられた方は不意をつかれて大混乱。ある若武者が自分の兜をかぶろうと、枕元を見たがない。あるのは水わかしだけ。そこで湯を捨て、兜の代わりにかぶった。この若武者が強く、敵の直中に突っ込む。 敵が一斉に矢を放つと、水わかしに当たってカーンという音。矢が当たってカーン、矢カーン、やかん。」 「矢が当たってカーン」が語源というのは、勿論落語の世界の話だ。 漢字では「薬缶」と書くように、その語源は薬に関係している。奈良時代以降中国の僧や遣唐使などにより、主として煎じて飲む生薬(漢方薬)が伝えられた。 生薬を煎じるのに用いる道具は金属で造られ、注ぎ口があって直接火にかけることができた。 薬缶のかんは「鑵」で、鑵にはつるべ・瓶・金属製の容器(罐詰など)・湯沸かしの器の意味である。 生薬を煎じるための「鑵」が語源となって、「薬鑵」の言葉ができた。 薬鑵は初め「やくくわん」と表記され、やがて「やくあん」となり「やかん」となった。 江戸時代になって茶を飲む風習が庶民にも広まると、煎じ薬用の器の用途はやがて湯を沸かすための道具として用いられるようになっていった。 現在は様々な形態の洋風薬缶が作られており、それらはケトルの名前で販売されている。 70年も昔教室の達磨ストーブの上で湯気を上げていた、アルマイト製の大型で丸い薬缶は近頃あまり目にしなくなった。 土瓶で沸かした湯で入れたお茶は美味い、銅製の薬缶は早く湧く、鉄瓶はポットに移しても冷めにくいと言う人などありそれぞれである。 薪ストーブの上に乗せた厚手の銅製やかんで湧いた湯で入れた茶は、同じ水を自宅でステンレス製やかんに入れガスで沸かした湯で入れたお茶より確かに美味い。 ただしこれはやかんのせいでは無く、薪が燃える炎を見ながら味わうというハロー効果のせいかも知れない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年10月24日 09時12分43秒
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