出合います? たった三日で こんなにも
NHK-Gの番組「72時間:和歌山のガソリンスタンド」を見ました。ある場所に3日間72時間、クルーが陣取ってそこを訪れる人たちにインタビューをする番組。私は欠かさず見ています。昨日は和歌山にある格安のガソリンスタンドが舞台でした。私が行く、奈良にあるスタンドと同じ系列で「あ、おんなじだ」と思い「どんな人が行っているんだろう」という興味で見始めました。でも格安の話題はどこかに飛んでいくほど、そこには訪れる人たちの千差万別の人生がありました。もちろん画面以外の何倍もの取材はあったのでしょうが、映ったのはNHKが仕込んだのかと思いたくなるほどの人たち。最初こそ「安いから」来たという人や変わったところではトラクターに軽油を入れに来た人の取材が中心でしたが、番組が進むにつれ、出合う人ごとに波瀾万丈の人生が語られていきます。先代がやめることになったラーメン屋台の車を、採算度外視で引き受けた人。高野山から野迫川村に夜明けの雲海を見に行く家族。30代で仕事を辞めてスライム販売を始めた女性。その後部座席には彼女が「パートナー」だという大きな豚が乗っていてびっくり。さらに次から次へと、ガソリンスタンド利用者のディープな人生が相次いで語られます。40歳前後とおぼしき男性。奈良までデートをしてきた帰り「彼女とはどれくらいつきあっているのですか」という質問に「今日、いまから」との答え。離婚後新しい彼女との初デートが今日だったそうで、往復2時間の車内ではずっとしゃべり続けて、お互い気が合う人同士だと確認し「つきあってください」「はい」となったとか。高野山に雲海を見に行った家族は帰りにもガソリンスタンドに立ち寄ったのをあらためてインタビュー。そこで語られたのは6年前に9歳だった次男を事故で亡くしたこと、立ち直るために時間がかかったこと、その供養として高野山に通っていることでした。後を追いたかったが他にもいる子ども達のためにはそれもできないことなどを淡々と語っていた様子は少し高野山や雲海に癒されたのかなという印象でした。最後の方では和歌山の大学に進学した娘を送ってきた日本語講師のシングルマザー、2週間の東北旅行を終えてちょうどその日に帰ってきた初老の夫婦と、インタビューが続きます。これら以外にも話を聞いたひとり一人に、外からでは見えない人生模様が思いがけず見られた30分でした。何気ない場所に72時間カメラを据えてそこに来る人たちの人生を語ってもらうこの番組、今回は歴代の番組のなかでも偶然の出会いが多く記憶に残る回だったように思います。年末に視聴者が選ぶ記憶に残るランキングが発表されますが、「和歌山のガソリンスタンド」は間違いなくその候補に推したい番組でした。