画期的な出来事?
先日、このコラムでも紹介した多摩ニュータウンの一画で進められているマンション開発計画ですが、その開発に異議を唱えている方々から、めぐりめぐって何故か私のところに相談があり、この間、何度か住民有志のみなさんの会合に参加させていただきお話を聞く機会がありました。今あちこちで起きているマンション問題の多くが、現行都市計画法・建築基準法の脆弱性もさることながら、まちづくりに本来不可欠である事業者と住民とのコミュニケーション不足あるいはギャップが少なからず起因していると考えていた私にとって、今回の話は見て見ぬふりの出来ない出来事であり、このような機会を与えてくれた世の中にとっても感謝しています。さて、今回の件ですが、ある日突然降って沸いたマンション建設計画の近隣説明会に端を発します。どんなマンションが建つんだろ-と興味深々で出席した住民の皆さん、提示された計画図を見て仰天するわけです。それもそうです。12階建で横の長さが100M超、典型的な板状住棟が目の前に立ちはだかるわけですから。購入時にURからこんな話は聞いとらんかった。もうちょっと何とかならんのか。この間住民有志の方々は、計画案にたいして色々と改善要求を提示し続けて来られた訳ですが、法令を遵守した建設計画を進めようとしている企業側にとって、この要望は恐らく住民エゴとしか聞こえなかったのでしょう。話し合いは平行線を辿ります。そんな状況に呼ばれてのこのこ入っていったのが私というわけですが、先日、八王子市の仲介によって、膠着していた事業者側との話し合いが再開され、とりあえず事業者側に私のアイデアを基にした住民提案を説明、事業者側も持ち帰って(どの程度か分かりませんが)前向きに検討してくれることになったらしいという、知らせが代表者の方から私の耳に入ってきました。「話にならない!」と一蹴される最悪のケースも覚悟していた私にとってこの知らせが、まちづくりプランナー冥利に尽きるこの上なくうれしいお知らせであることはさておき、私以上に、この間、精神的にも肉体的にも大変な苦労を続けてこられた住民のみなさんにとって、この知らせが晴天の霹靂とも言うべきこの上ないお知らせであることは想像に難くありません。この間、夜遅くまでアイデアを出し合い、慣れない模型作りにチャレンジされ、住民提案の原案にたいする得失をまとめたりされた住民の方々の努力の賜物以外の何物でもありませんが、その過程で常に私たちが意識したのは、住民の独善的一方的な主張を極力抑制し、可能な限り事業者側の立場に立ちながら、住民が要求しようとしていることをリアリゼーションしようとしたことでした。恐らく、こうした住民のみなさんのまちづくりに対する一生懸命な姿勢が事業者側に通じたのでしょう。既に相当煮詰められていた事業者側の計画がベースになっていますから、住民提案が百点満点には程遠い妥協案であることは否定できませんが、リアリティのない文句をただ言うだけではなく、具体性のある提案をした住民、その提案を真摯に検討しようとする姿勢を示してくれた企業の英断。お互いが聞く耳を持ち積極的に妥協案を見出していこうとするこのプロセスこそが本来のまちづくりの姿なのであり、そういう意味では、例え今回事業者側の検討結果が住民提案の1/10の採用に留まったとしても、それはそれで画期的な出来事と言っていいのではないかと思われます。予断は禁物ですが、今後の成り行きに期待です。