事例1 夫が無断で妻のクレジットカードを利用して買い物をした場合に信販会社の立替金請求について5割の過失相殺をした事例
(札幌地裁平成7年8月30日判決)
「事案の概要」
信販会社Xは,Yとの間のクレジットカード契約に基づき,Yがカードを利用して買い受けた金員の残額約19万円と,Yの夫AがYのカードを利用して買った商品の残代金約311万円の支払いを求めた。
Yは<1>同居人のカード不正利用による損害をカード会員の全額負担とするとの規約は公序良俗違反である<2>そうでないとしても,Yの責任はカード利用限度額に限定されるべきであり,少なくともXが限度額を超えていることを認識できた時点の額に限定されるべきである<3>Y個人しか利用できないカードを加盟店がAに使用させたことはXの過失であり信義則ないし過失相殺の法理によりYの責任は限定されるべきである,等と主張した。
「判旨」
<1>について
家族によるカードの利用は第三者と比較してはるかに容易であり,他方,会員は信販会社に対してカードの保管義務を負うべき立場にあるから,家族による使用について,それ以外の者による使用と区別して重い責任を負わせるのは一応の合理性がある。
<2>について
利用限度額は,加盟店がそれ以上の利用を拒絶できる趣旨であり,会員の支払責任を限定したものではない。
<3>について
本件カードは個人カードであるから,本人でないものの利用は禁じられており,加盟店としても,本人であるかについて疑問のある場合その旨を確認すべき義務がある。これを怠った加盟店の過失を履行補助者の過失と評価し,5割の過失相殺をした。
判例タイムズ902号119頁
事例2 クレジットカードが会員に無断で使用された場合,加盟店が会員本人の確認義務を怠ったときは,無断利用の利用代金の2分の1については,クレジット会社が会員に対して支払請求をすることが,権利の濫用として許されないとされた事例
(名古屋地裁平成12年8月29日判決)
「事案の概要」
クレジット会社Xは,会員Yに対し,クレジットサービス等の残金約271万円の支払を求めた。Yは,Xが主張するクレジットサービスのうち一部は,第三者AがYに無断でYのカードを利用したものであり,そのことは,カード利用明細書のサイン欄を調べれば一目瞭然であるから,無断利用分につきクレジット利用金の市はリアを請求することは権利の濫用として許されない,と主張した。
「判旨」
加盟店の売上票には,一見明白にY以外の署名と認められる署名がなされていて,加盟店としては,署名の同一性を比較することにより,Yのカードの利用者がカード本人でないことを容易に知ることができ,Yのカードの不正利用を防ぐことが可能であったと認められる。そうすると,加盟店がかかる義務を怠った結果,発生したカードの無断利用のうち2分の1については,XがYに対しカード規約2条4項に基づき支払を請求することは権利の濫用として許されない。
判例タイムズ1092号195頁