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カテゴリ:コミック・漫画
昭和57年発行の白土三平作品「鬼泪」を読みました。
27歳の石神栄次。鬼泪山のふもとで生まれて育った若者が主人公です。母が死んでから3年後に、仕事に行き詰まって故郷の町に帰ってきました。 そこで、地蔵泥棒をしようとする町の天羽連合のチンピラとけんかになり、漁師の磯貝松蔵と知り合いになります。妻を亡くし、一人旧式の船で漁をする松蔵と栄次は意気投合します。 栄次は、と殺場で働きます。誰よりも一瞬に豚や牛を殺せる力を持った栄次です。殺してからの処理が白土三平らしく細かく描かれます。見たくないシーンだけど、豚や牛の不適な面構え、立ち向かう栄次や他の人達の真剣な表情に、「いのち」を奪うことへのおごそかな気持ちがあふれています。 「赤の家」という章があります。 栄次は鬼泪山山系の石材採取の仕事もします。 朝吉じいさまの話。 鬼泪の杉林を伐採しろという軍の命令がきた。 ただ一人反対したのが朝吉だった。山の入り会いの全員の判がなければ伐採できない申し合わせだった。朝吉は、一度に森を伐採すれば大雨の時に必ず地すべりが起きると、がんとして判を押さなかった。 とうとう憲兵隊がきて朝吉は連れていかれ、 おかしなことにそこに赤紙がきて、留置場から直接招集を受けて戦地に連れていかれてしまった。それきり戻って来なかった。 「あん頃は、国益にさからうものはあんでもかんでも「赤」ってことにされちまったんだ。 それからわしんとこは「赤の家」ってことで村八分。」 そのあと大雨のあとの地滑りで、集落は流された。森を伐採したせいで。 栄次は思う「おれは今、その山自体を崩しているってわけか」 ある日、松蔵は栄次を漁にさそいます。漁師たちは山の姿を見て自分の船の位置を知るのです。 山の見える場所でいろいろな魚のポイントが分かるのです。 ひときわ高いのが鬼泪の女星。それが(視界から)消えると山無しの海になる。ある日、栄次は山で発破をかけていた、松蔵は漁を終え、山無しの海から女星の見える場所まで船を走らせた、、、ところが、そこに見えるはずの女星がなかったのです。 その日、栄次たちの発破で女星は崩れ落ちてしまっていたのでした。 この仕事が終わったら、松蔵と漁の仕事をしよう、やっと自分がやりたい仕事が見つかった、と思う栄次が知ったのは、松蔵の死でした。 ★陸の方からしか考えていなかったのですが、海の方から漁師さんたちが目印にしている鬼泪山の姿もあったのですね。鬼泪山は、一帯の山々のことを指します。 最後に残る鬼泪山、ぜひとも守ってほしいです。 白土三平さん、今の鬼泪のたたかいを描いてくれないかなあ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.05.25 22:13:51
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