テーマ:本のある暮らし(3218)
カテゴリ:本の話題
小説新潮別冊「The COOL! 桐野夏生スペシャル」の中にあるオマージュ小説である。前回の「偽ブランド」に関連というのでもないが気になる題ではある。
実は桐野夏生さんの新刊書「アンボス・ムンドス」を買いに行って、平積みの隣においてあったこの雑誌をも買ってしまった。ついでにいうと現在進行形の作家さんの写真やら、特集記事やら満載のこういのものは初めて買った。作家は文章で勝負と思っているのに、どうしたことか(笑) で角田光代さんの小説、常々読みたいと思っていたので短篇ながら味わったのだ。 「私」は香港の雑踏を歩いていてとある路地のごみごみしたところに迷い込んでしまった。においもひどいし、雑多な物がひしめいている。屋根もあって薄暗く、言葉は通じない。 そのとき路地裏で日本人だと直感した、貧しい身なり洗濯女に行き会った。道を尋ねたがわからない言葉とにらむだけ。でも、何もいわずに手を引いて出口に案内してくれた。存在感に圧倒された。 その夜、豪華な中華料理を食しながら、喧嘩のため別行動していた男友達に裏通りの冒険を話した。男の興味は料理だけ。「失敗か…」失望感が滲む。 にぎやかなレストランの日本人の一団のなかに豪奢な身なりの同じ女を見つけ目を疑った。 『スラムで洗濯していた女が高級レストランにあらわれたのに、不思議な感じはしなかった。そのどちらもにも浮くことなくなじんでいる、というよりも、彼女がいるという一点であそこもここもたいした違いはないように見えた。』 駆け寄り「昼間は助けていただいてありがとうございました」といったが「さあ、知らないわ、人違いかしら」と笑だし何かいった。「チャダ」と聞こえた。 後で「チャダ」とは「まがいもの」とわかる。また遇いたくてその路地裏を探し歩くが見つからない。 『この目が在るととらえるものはみなまがいもの。昨日たしかにこの足で訪れたのに、地図の上ではけして見つけられないような、そんなあやふやなもの。それらを本物にするのは、リアルに存在させるには――。私は思い出す、スラムでもレストランでもあの女が圧倒的に存在していたことに。』 「私」はある決心をする。 という角田光代さんの文もいい。 桐野さんの小説は今そんな具合であると私も思う。なかなかおいしい雑誌である。 下記は10月の本購入本の表である。読書の秋ならぬ積読増(つんどくぞう)の秋。★は古本。 「冒険の国」桐野夏生(新潮文庫) 「書を捨てよ、町へ出よう」寺山修司(角川文庫) 「西の魔女が死んだ」梨木香歩(新潮文庫)★ 「十角館の殺人」綾辻行人(講談社文庫)★ 「アンボス・ムンドス」桐野夏生(文藝春秋社) 「The COOL !」小説新潮別冊(新潮社) 「覆面作家は二人いる」北村薫(角川文庫) 「源氏物語」山岸徳平校正(岩波文庫) 「夏の庭」湯本香樹実(新潮文庫) 「ポプラの秋」湯本香樹実(新潮文庫) 「林真理子の名作読本」林真理子(文春文庫) 「月の砂漠をさばさばと」北村薫(新潮文庫)★ 「倉橋由美子の怪奇掌篇」倉橋由美子(新潮文庫)★ 「天山を越えて」胡桃沢耕史(徳間文庫)★ 「本格小説」(下)水村美苗(新潮社)★ 「アンダーグラウンド」村上春樹(講談社)★ 「伊賀忍法帖」山田風太郎(講談社文庫) ←今年に入っての購入本100冊を超えてしまった。読んだのもあるが、いつ読むの? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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