漂泊の思い
＜ 五月雨を あつめて早し 最上川 ＞ 山形 最上川 松尾芭蕉の 「 奥の細道 」 を読むと、 いつの時代も、同じことを考える人間はいるのだなぁと感じる。 彼もまた、日本を見ようと旅に出ているのだ。 「 奥の細道 」 は、江戸時代 1689年 の 紀行記 である。 芭蕉は、アチコチさすらいたいという 漂泊の思い が抑えられずに、 やがていろんなことが手につかなくなって、 病身をおしてでも、噂に聞く景勝地をひと目見ておきたいと旅に出る。 江戸を出発し、北に向かい、東北・北陸をぐるりと巡って岐阜の大垣にたどり着く。 その行程を、半年ほどの時間をかけて歩いてゆく。 そして、各地で俳句を詠んでゆくのだ。 ・ 閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 ・ 五月雨を あつめて早し 最上川 ・ 夏草や 兵 （つはもの） どもが 夢のあと 彼の生涯は、日本各地の名所旧跡や歌枕を回る旅に注がれた。 「 奥の細道 」 以外にも、「 更科紀行 」や「 野ざらし紀行 」 などの 俳諧紀行を書いている。 そして最期は、旅先である大阪で、門人に見守られながら亡くなった （享年50） まさに、「 旅に生き、旅に死ぬ 」 という人生！ バイクで日本一周したとき、 俺も、奥の細道ゆかりの景勝地をいくつか訪れた。 宮城・松島、 秋田・象潟、 山形・最上川、 新潟・親不知、 ・・・・・ これが芭蕉の見た風景なんだと、 300年前、同じような思いでここにたどり着いた芭蕉に思いを馳せながら。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 参考までに― 「 奥の細道 」 1．漂泊の思い 月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人なり。 舟の上に生涯を浮かべ、馬の口をとらへて老いを迎ふる者は日々旅にして旅をすみかとす。 古人も多く旅に死せるあり。 予もいづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、漂泊の思ひやまず、 海浜にさすらへ、去年の秋、江上の破屋にくもの巣を払ひて、 やや年も暮れ、春立てる霞の空に白河の関越えんと、 そぞろ神の物につきて心を狂はせ、道祖神の招きにあひて取るもの手につかず、 ももひきの破れをつづり、笠の緒をつけ替へて、 三里に灸すうるより、松島の月まづ心にかかりて、 住める方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、 草の戸も 住み替わる代ぞ ひなの家 面八句を柱に掛け置く。 （chikyuujinの現代語訳） 月日は、過去から未来へ百代にもわたるほどの旅人であり、 行き交う年もまた同じように旅人である。 舟の上に身を浮かべて一生を過ごす者、馬をひきながら老いていく者たちは、 日々が旅であって、旅を自らのすみかとしている。 昔のひとも多く旅の途上で死んでいる。 私もいつの年からか、 片雲が風に誘われるような、あちこちさすらいたいという漂泊の思いがやまない。 去年の秋に、海浜をさまよって隅田川のほとりのあばら屋に戻り、 くもの巣を払って住んでいるが、やがて年も暮れてしまった。 年が明けたら、立春の霞が立ちこめる空のころには 白河の関を訪れたいなぁと思う。 そぞろ神がとりついて私の心を狂わせたり、道祖神の招きにあったりして、 いろいろ手につかなくなる。 まだ、ももひきの破れをつくろい、 笠のひもをつけかえて、足の三里に灸をすえているだけなのに、 もう、松島に昇る月が気にかかって仕方ない。 もう住んでいたところも人に譲ってしまった。 弟子の杉風の別宅に移る時に、一句詠んで、庵の柱に掛けておく。 私の住んでいたこんな草庵でさえ住みかわる時が来た。 次は、雛祭りの頃には雛人形を飾るような、そんな華やかな家になるんだろうなぁ
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