ヒストリエ7巻
『ヒストリエ (7)巻 限定版』価格:2,480円(税込、送料別)「ヒストリエ」7巻を読みました。マケドニア将棋がついているという限定版が欲しくてネットで注文したら翌日にはもう届き、ちょうど休日で家でダラダラしていたのでいっきに読んでしまいました。6巻のヘファイスティオンの設定にも衝撃を受けたけど、7巻のそうなった理由についての詳しい描写、これはもうかなり怖くてトラウマになりそうです。子供や残酷な場面が苦手な人にはお勧めできないなあと思いました。逆にエウメネスがフィリッポス王やエウリディケと彼が考案したマケドニア将棋をやる場面はほのぼのしていてとてもよかったです。漫画では職人さんが作ったという設定の木彫りの王や王子の駒がすごく似ていてリアルでいいです。限定版はさすがにそこまで凝ると単価が高くなってしまうからでしょう、普通の将棋の駒のようになっていてただ形が少し違っていました。特別限定版として漫画のようにリアルな顔のマケドニア将棋が発売されたなら、値段は少々高くても買ってしまうと思います(笑)エウメネスがフィリッポス王と将棋を指す時はパルメニオン将軍とアンティパトロス元老も横で見ていて緊張しそうです。こんなすごい人物の前でも飄々としているエウメネス、いい味出しています。そして元老との約束をすっぽかして(笑)エウリディケとの将棋を楽しむエウメネス、エウリディケというと叔父アッタロスの野心のために利用されて年の離れたフィリッポス王と結婚させられ、王が暗殺された後オリュンピアス王妃に生まれたばかりの子を殺され自殺に追い込まれる、ひたすら不幸でかわいそうな女の子というイメージでしたが、この漫画のエウリディケは生き生きしていてとても魅力的です。エウメネスに将棋を教えてもらって戦いに詳しくなり、自分は戦場に直接行かなくてもフィリッポス王に助言したかもしれないと想像すると楽しいです。この漫画でエウリディケに対するイメージは大きく変わりました。ここから先かなりネタバレの感想になります。ヘファイスティオンが生まれるきっかけになったエピソードはかなり怖くまたグロテスクでトラウマになりそうです。でもこの場面、全くのフィクションとは割り切れず、似たようなことはあったかもしれないと想像できるリアリティがあります。アレキサンダーの母オリュンピアスは奔放な性格だったようで王以外の男と関係しその相手を殺すことだってありえそうです。アレキサンダーは自分は神の子だと思う反面もしかしたら奔放な母が関係を持った男との間に生まれた子かもしれないと疑ったかもしれません。実際に目撃しなくても母がいろいろな男と関係しその相手、もしかしたら自分の父かもしれない男を殺している、そんなことが想像できる環境にいたら子供にとってはすごいストレスで2重人格になる可能性は十分あると思います。実際アレキサンダーは伝えられているエピソードを見ても、すごく優しく純粋なところと極端に残酷で衝動的に人を殺すようなところがある、2重人格に近い性格の人のようです。純粋なアレクサンドロスの裏の人格として生まれたヘファイスティオン表の人格は裏の人格の行動を知らないとなると裏の人格であるヘファイスティオンはアレクサンドロスが見たくない現実をどんどん見てどんどん歪んだ性格になりそうです。ひねくれっ子のヘファが弟アリダイオスをいじめてそれが顔もそっくりのアレクサンドロスのせいにされてしまう母オリュンピアスは何でも話せる心の友としてヘファを作ったはずなのに逆にアレクの知らないところでヘファが悪いことをして足を引っ張りそうです。そしてアレクは大変な場面ではヘファを頼って逃げてしまうから醜いものは見ず純粋無垢な子に育ち、裏人格のヘファはますますひねてとんでもない不良になってしまう、成長するにつれ両者はどんどんかけはなれてついには破綻してしまうのではないか、と思ってしまいました。2重人格という特殊な設定をこの漫画ではしていますが、世界史に出てくる英雄や神話のヒーローは案外2重人格で極端な性格、あるいは影のようによりそい主君ができない悪いことを裏でやる側近がいる、というパターンが多いのではないかと思いました。両極端のことを1人の人間がやるか忠実な側近に悪いことをやらせるか、いずれにせよ極端な人間でなければ歴史や物語の流れを変えることはできないかもしれないと思います。7巻で最も怖かった殺され切り落とされた首を大蛇が呑み込むという場面(こんなとこ見たからヘファはヘビが嫌いになったのか?)イメージ的にヘビはアレキサンダーの母オリュンピアスに重なるし、アレクは父フィリッポスの暗殺に母が関わっていたということを心の中で完全には否定できなかったはずなので、蛇が頭を呑み込むという神話がアレキサンダーの心の奥底にずっとあってその恐怖から逃れるためにあんな遠くまで行ってしまった、そんなふうにも思いました。漫画は作者が想像し作り上げた1つのフィクションだけれど、そのフィクションから史実ではわからない歴史上の人物の姿が生き生きと浮かび上がってきます