南郷サマー・ジャズフェスティバル2008
今年もやってきました。恒例の南郷ジャズフェスティバル。今年は19回目を迎えました。このところ入場者数が3年連続2000人台と長期?低落傾向にあります。 今年は、幾分持ち直したように見受けられました。外国人アーティストは招聘されていませんが、MALTA、「オーケストラ・デ・ラ・ルス」などの有名どころが出演するためでしょうか。■オリジナリティにあふれた村田陽一・オーケストラ 個人的には「村田陽一・オーケストラ」が大注目でした。昔から、彼のトロンボーンのメロウなサウンドと素晴らしい作編曲が好きだったので、とても興味深かったです。 彼が率いるグループとしては「Solid Brass」、「Hook Up」があり、「Solid Brass」については以前からCDで聞いていました。 今回のグループは「Solid Brass」と違ってべースやギター、ホルンまで入っています。傾向としては、電化後のギル・エバンスのサウンドに似ていると思います。 氏のブログにも出ているように「もともとはマイルスデイビス、ギルエバンスのトリビュートの為、新宿ピットインの店長、鈴木君の呼びかけで始動」ということなので、私がそう感じたのも当然のことでした。 リーダーの村田陽一はトロンボーンとこのバンド限定のピアノニスト、指揮者、もちろん作編曲と彼のワンマンバンドといってもよい活躍でした。 とにかくパワフルの一言に尽きます。それに、ハーモニーが斬新でとても楽しめます。 MCでも言っていましたが、リーダーの指示によってどんどん音楽の方向が変わっていくため、メンバーは譜面だけ読めればいいわけではなく、かなり高度な技術が必要です。まるで、マイルスの音楽みたいです。 1曲目の「Stone Free」はファンクのリズムに乗って爆発的な演奏が繰り広げられます。ソロは村田(Tb)、本間(tn)の順。村田のトロンボーンは聞きなれたメローな太菅の響ではなく、バリバリとなる細管の響きでちょっとがっかり。ソロそのものは全く文句ありません。息継ぎのときに楽器を上にあげる仕草が目立ちました。 2曲目はマイルスの「オール・ブルース」長いイントロの後、この曲の特徴的なベース・フィギュアが始まります。ミュート・トランペットとアルトのユニゾンが新鮮です。ソロは松島(Tp)、津上(as)の順。 3曲目はミンガスの「オレンジは彼女のドレスの色」エレキべースとピアノのバッキングに乗って、繰り広げられる村田のちょっとぎくしゃくとしたソロがなかなかシュールです。あまりミンガス色は強調されていません。ソロは村田、三好(g)。三好のソロはファンキーで最高でした。 4曲目と5曲目はまだ録音されていない曲。そのためかタイトルも数字とアルファベットだけで仮の名前のようです。4曲目はホルンをフィーチャーした、4拍子のスローバラード。慰めに満ちた曲で泣けました。ホルン・ソロはピアノとのユニゾンでテーマが演奏されるだけで、期待したアドリブ・ソロはなかったです。残念。 5曲目はファンクのリズムで進行する都会の哀愁を感じさせる曲でした。ソロは奥村(Tp)、青木(Tb)、佐野(Ds)。青木のトロンボーンは柔らかな音でよかったです。 最後は本番直前にリクエストに応えて編曲した「ザ・チキン」。「ザ・チキン」という曲は前からあるので、おそらく次田のチューバをフィーチャーしてほしいというリクエストに応えるための編曲と思われます。 無伴奏チューバソロで始まりましたが、期待に応えてチューバ・ソロはユーモアたっぷりに演奏されました。 この曲は、クインシー・ジョーンズの「Walking inSpace」的な構成、テーマーを延々と繰り返しながらアドリブ・ソロをつないでいく、でメンバーのソロも次第に白熱していきます。その中で、津上が入る順番を2回間違えたのはご愛嬌でした。 ソロは村田、本間、(奥村、松島)、(津上、青木)、(津上、奥村)。(括弧は4バース) 村田のブログにこのときの感想が載っています。MCではたして、このような少し過激な演奏が観客に受けるか心配していたようですが、観客も楽しめ、自分自身も満足のいく演奏だったようです。 個人的には、まだ録音されていないM86とM12の録音を強く希望したいです。■MALTA率いるコミックバンド 第4部はMALATAのバンドMJQ+でした。野外にふさわしいトロピカルムード満点の演奏で場内は最高に盛り上がりました。盛り上がりすぎて、用意していないアンコールまでやってもらってよかったよかった。。。 どうもMALTAの「盛り上がってますか」から最後に「盛り上げてくれ」と懇願したのがまずかったようです。 基本的には90年代の曲を中心とする選曲で、「お前さん。まだフュージョンやっているの?」と言いたくなるようなノスタルジックな面もありました。もう少し新しい面を見せてくれたらなあ~と思いました。 それから、動作が諧謔的で、真面目な演奏をしても、そちらのほうにばかり気を取られて、結果的には損をしているように思うんですがどうなんでしょうか。 実力が半端ではないだけにあるだけにもったいないと思います。 昔(今でも現役ですが)、リッチー・コールという馬鹿テクサックス奏者がいましたが、その2番煎じを見ているようでどうも具合が悪かったです。物には限度というものがあり、日本人はそこいらへん敏感ですから。。。 中では新作世界一周クルーズで訪れたメキシコの「トゥルーム遺跡」の印象を綴った「トゥルームの家」が良かったと思います。■小山太郎カルテット 2004年から日本で活躍しているドラマー小山太郎のカルテットです。パワフルでシャープなドラミングが素晴らしかったです。それにサイドマンに実力者を揃え、安定した演奏を繰り広げたと思います。 ゲストの近藤和彦のサックスも太い音でぐいぐいと迫るソロに圧倒されました。この中では「エルム」でのソロが特に素晴らしかったです。 音楽監督の田中裕士の音楽性の素晴らしさが、随所に出た編曲もシャレていました。 田中の「The rare Monn」、小山のF1ドライバーとして有名なナイジェル・マンセルに捧げられた「Tale to Nose」はいい曲でした。 最後は、小山がハイハットだけをもってステージ前に出てきてパーフォーマンスをするほどの盛り上がりようでとても楽しめたと思います。 ■更なるレベルアップを期待 市原ひかり ドラマーの市原康のトリオに娘のひかりのトランペットがフィーチャーされた演奏。かなりモダンな響きのするバンドでした。 市原ひかりの演奏はケニー・ドーハムのようなリリカルな演奏ですが、テクニックが少し弱いように思いました。 本人も意識しているのか、高音を使わない中音域で勝負しています。また、ハーフバルブを多用しているのも特徴的です。 何曲も続けると変化がないために飽きてきます。今後もう少しテクニックを磨く必要があるのではないでしょうか。 スタンダード中心の選曲の中で、福田の「Go Ahead Nigel」というこれもナイジェル・マンセルに捧げた曲がおもしろかったです。■そしてサルサの夜は更けていくのでした。。。 最後は4年ほど前から復活した「オルケストラ・デ・ラ・ルス」。カルロス菅野や塩谷哲は知っていますが、演奏をまじめに聞いたのは今回が初めてでした。 個人的に、歌ものはあまり面白くありませんでした。インストものでの分厚いハーモニーと圧倒的な迫力にびっくりしてしまいました。 一番気に入ったのは最初の「燃えよドラゴン」でのトランペットのハイトーンの切れと、トロンボーンのほとんど切れかかったような狂気のソロのすごさでした。 ほかの曲は楽しいのですが、個人的にはあまりピンとこない曲が多かったように思います。 歌ものでは、JINの圧倒的なファルセットボイスが素敵な「Mr.サマータイム」が良かったです。 NORAのボーカルは、時々音程があやしくなり、あまり満足できませんでした。しかし、聴衆を乗せる技術は大したものです。 最後のほうは、踊っている人もちらほら見受けられ、サルサの濃密な夜は更けてゆくのでした。。。。 そのほかオープニングとして八戸工業大学第一、第二高等学校吹奏学部の合同演奏がありました。フュージョンを中心としてとても楽しめるプログラムだったと思います。しかし、「ブライアンの休日」のリタルダンドと最後の長いのばしには脱力してしまいました。。。南郷サマー・ジャズ・フェスティバル2008オープニング:八戸工業大学第一、第二高等学校吹奏学部1.課題曲2.渡辺貞夫:ランデブー3.マンシーニ・酒とバラの日々4.渡辺貞夫:ランデブー5.安藤正容:イッツ・マジック6.スティービー・ワンダー:心の瞳7.山里佐和子編:Let's Swing8.内藤淳一:ブライアンの休日(アンコール) 第1部:市原康トリオ with 市原ひかり1.Harold Arlen:It's Only Paper Moon2.Gershwin:Come Rain or Come Shine3.Maria Mendez Grever:What a different a Day Made4.曲名不詳5.Vicotor Young:Stela by Starlight6.福田重雄:Go Ahead Nigel7.George Gershwin:Love Is Here To Stay市原康(p)古野光昭(b)福田重男(p)市原ひかり(Tp)第2部:小山太郎カルテット1.Desmond:Take 52.Jerome Kern:All The Things You are3.田中裕士:The Rare Moon4.エルム5.小山太郎:Tale to Nose小山太郎(Ds)田中裕二(P)生沼邦夫(b)近藤和彦(as,ss)第3部:村田陽一・オーケストラ1.Stone Free2.マイルス・デイビス:オール・ブルース3.ミンガス:オレンジは彼女のドレスの色4.村田陽一:M86(2008)5.村田陽一:M12(6/8)6.村田陽一:The Chicken村田陽一(Tb,p)三好功郎(g)小松秀行(e-b)佐野康夫(Ds)奥村庄晶(Tp)松島啓之(Tp)青木タイセイ(Tb)津上研太(as)本間将人(ts)竹村直哉(bs)次田心平(Tub)萩原研彰(Hr)第4部:MALTA JAZZ QUINTET.plus1.MALTA:High-Up-Sky2.Swing High Pressure3.MALTA:フェリーシア4.Jimmy Giuffre:Four Brothers5.MALTA:セノーナの家6.ホーギー・カーマイケル:スターダスト7.Jose Manzo Perron:MOLIENDO CAFE(コーヒールンバ)8.MALTA:SWEET MAGIC9.MALTA:テーマ10.MALTA:Morning Flight(アンコール)MALTA(as)布川俊樹(g)平下政志(key)ジーン重村(Ds)早川哲也(b)第5部:Orquesta de La Luz1.燃えよドラゴン~Enter the dragon~2.メンバー紹介3.El Cumbanchero4.曲名不詳(日本語の歌)5.Mr.サマータイム6.曲名不詳(NORAのソロ)7.曲名不詳(ボイ入りア・カペラ)8.曲名不詳9.情熱の花(Passion flower)10.曲名不詳(日本語の歌)11.Volare(アンコール)NORA(vo)JIN(vo,chorus)GENTA(timbales)YOSHIRO SUZUKI(bongo)JIN MIYAMOTO(Congas)TAKAYAMA SAITO(p)KAZUTOSHI SHIBUYA(b)ISAO SAKUMA(Tp,Fr)YASUSHI GOTANDA(Tp)HITOSHI AIKAWA(Tp,Chorus)DAISUKE MAEDA(Tb)2008年7月19日 八戸市南郷区カッコーの森エコーランド 野外ステージ