カルメン交響曲
セレブリエ指揮アメリカ海兵隊バンドのライブがnaxosから登場しました。昨年4月23日のホールでのライブです。メインのカルメン組曲より、ヒナステラやヴィラ=ロボスの作品が良かったと思います。演奏は文句のつけようがなく、おまけに安いときていますので、吹奏楽ファンの方はぜひお聞きいただきたいと思います。 曲はセレブリエ編曲のビゼーのカルメンをメインとして、ヒナステラの「エスタンシア」組曲、ビラロボスの木管4重奏とウインド・オーケストラのためのコンチェルトグロッソ、などが演奏されています。■海兵隊バンドの腕をもってしても月並みな印象だったカルメン交響曲 「カルメン組曲」はセレブリエールがオケ用に編曲したものをドナルド・パターソン曹長が吹奏楽用に編曲しています。 通常演奏されるフリッツ・ホフマン編曲の管弦楽用の第1・第2組曲とは曲数は同じですが、一部の曲が異なります。また、ソロ楽器も異なります。 人口に膾炙した音楽ですので目新しい解釈を打ち出すのは難しいと思います。サックスやトロンボーンをフィーチャーした曲がありそれなりに新規性はありますが、いかんせん解釈がぬるく、マリーンバンドのうまさをもってしても月並みから脱出することは難しかったようです。 最後の「ジプシーの踊り」もテンポが遅く、熱狂的というわけにはいきませんでした。観客は沸いていますが、こぎれいに仕上がっただけといったら言い過ぎでしょうか。 ■楽天的なメキシカン・ダンス 次のシルベストレ・レブエルタス(1899-1940)の組曲「綱」は同名のドキュメンタリー映画(1935)につけた音楽をエーリッヒ・クライバーが1935年に組曲にしました。それをセレブリエールが吹奏楽用に編曲したものです。 曲は第1曲の漁師が長い不漁の末につかんだ大魚との死闘を描いている部分を拡大したものです。その割には、音楽が楽天的で必死さが伝わってこないのはどうしてなのかわかりません。 どうもメキシコ風の音楽にしてしまったのが間違いのような気がします。 ■野蛮さが海兵隊バンドにあっている「エスタンシア」 ヒナステラの「エスタンシア」組曲はこのCD一番の聞きもの。もともとが民族色が濃く野蛮な曲ですので、USマリーンバンドが本領を発揮した演奏だと思います。 この中ではやはり終曲の「マランボ」が素晴らしいです。もともといやがおうにも興奮させる音楽ですが、ここでの熱狂的な演奏も格別です。編曲物としての違和感もありませんし、日本の吹奏楽団体でも、もっと演奏されてもいい気がします。■現代音楽風コール&レスポンス 「ナイト・クライ」 続いては、セレブリエールのオリジナル「ナイト・クライ」。このときの演奏が世界初演でした。これは、ムンクの有名な「叫び」という絵画を書く動機となった体験を日記につづった時の言葉にインスパイアされた作品です。 『私は二人の友人と、歩道を歩いていた。太陽は沈みかかっていた。突然、空が血の赤色に変わった。私は立ち止まり、酷い疲れを感じて、柵に寄り掛かった。それは炎の舌と血とが、青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦いていた。そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聞いた。』 オーケストラの金管楽器セクションが3つのグループに分かれ、ジョバンニ・ガブリエリ式のコール&レスポンスを繰り広げます。編成から言って、吹奏楽というよりはクラシックの現代音楽というべきでしょう。コールとレスポンスの間に間をとっているため、ひんやりとした感触が特徴的です。時々テュッティになりますが、そこは叫びが聞こえる場面でしょうか。 ホルンの音程が一部悪いのが気になりました。 ■ブラジルの哀愁を感じさせるコンチェルト・グロッソ ヴィラ=ロボスの「木管四重奏と吹奏楽のためのコンチェルト・グロッソ」は1959年アメリカン・ウィンド・シンフォニー・オーケストラの委嘱で作曲された作品で、彼の最後の作品にとなりました。この曲はアメリカン・ウィンド・シンフォニー・オーケストラの編成に合わせて、オーケストラの管楽器セクションを中心とした編成で書かれています。 ほとんど録音がない曲ですが、以前デポール大が録音したことがあります。(Albany TROY 435) 木管4重奏は単独で出てくるよりも、ティッティで出てくることが多いですが、そのハーモニーが快いです。 バックは薄く、ソロ的な使い方がされています。また4重奏とのコール&レスポンスも時折聞こえます。なお、私の耳によれば、おそらく木管4重奏も管楽器の編成に入っているため、どこまでが木管4重奏でどこがバックかははっきりとは区別がつきません。トランペット、チューバ、打楽器がやけに目立ちます。 第1楽章はかなり技巧的な曲ですが、ラテン的な抒情あふれる曲です。後半に無伴奏で4重奏のカデンツァが奏されます。 第2楽章軽妙なテーマをもつスケルツォ的な楽章。平和な情景から次第に盛り上がっていきます。旋律の3連符×2の音形が特徴的です。 クラリネットのソロから始まる第3楽章はハープに支えられた木管4重奏がブラジルの夕焼けを思わせるような雰囲気を醸し出しています。 決して透明という感じではありませんが、情熱を内に秘めた哀愁を感じさせ、悪くないです。 後半のフーガの盛り上がりもなかなか感動的です。モチーフには2楽章で使われていた3連符×2の音形が顔をのぞかせます。この部分はヒンデミットを思わせるものがあります。 難易度が高いとはいえ、こんなにいい曲なのに取り上げられないが不思議なくらいです。 最後はお約束の「星条旗よ永遠なれ」。ド派手な演出もなく粛々と進んでいきます。 Bizet: Carmen Symphony(NAXOS 8.570727) 1.Bizet/Serebrier: Carmen Symphony I. Prelude II. The Cavalry III. Habanera IV. Seguidilla V. Fugato VI. Interlude 1 VII. Toreador VIII. Interlude 2 IX. Andante cantabile X. Interlude 3 XI. The Wedding XII. Gypsy Dance2.Revueltas: Mexican Dance3.Ginastera: Estancia Suite, Op. 8a I. Los trabajadores agricolas (The Agricultural Workers) II. Danza del trigo (Wheat Dance) III. Les peones de hacienda (The Cattlemen) IV. Danza final (Final Dance) [Malambo]4.Serebrier: Night Cry5.Villa-Lobos: Concerto Grosso I. Allegro non troppo II. Allegretto scherzando III. Andante6.Sousa: The Stars and Stripes ForeverThe President's Own United States Marine BandJose Serebrier,conductorRecorded live at the Music Center at Strathmore,North Bethesda,Maryland,on 23rd April,2007