2005年3月、ニューヨーク、コニーアイランド。
1920年代から遊園地があるこの島は、観光客が多く訪れ、毎年7月4日の独立記念日には、ホットドッグの早食い大会が行われる。
冬が過ぎ去って間もない早春の週末、コニーアイランドは今日も大勢の観光客と家族連れで賑わっていた。
ルドルフとユリウス、そして彼らの双子の娘、アナスタシアとエリザベートもその中にいた。
「お父様、あれに乗りたい。」
アナスタシアはそう言って木製ジェットコースターを指した。
「お前達にはまだ無理だよ。」
「いやよ、どうしてお父様とお母様は乗れてあたしとエルジィは乗れないの?不公平だわ。」
アナスタシアは両手を腰に当て、頬を膨らませた。癇癪を起こす前に取る仕草だ。
「あと10年経ったら乗れると思うから、我慢して。」
ルドルフはそう言ってアナスタシアを宥めたが、それは全く逆効果だった。
「いやよ、いやっ!人生は短いのよ!あたしとエルジィは絶対今日、サイクロンに乗るのっ!」
そう言って金切り声を上げて顔を真っ赤にしているアナスタシアを、通行人の何人かが振り返った。
こうなっては誰も彼女を止められない。
アナスタシアはルドルフからは聡明な頭脳と眩いばかりの美貌、そして炎のような気性を、ユリウスからはハングリー精神を受け継いだ。アナスタシアはルドルフの血を色濃く受け継いでおり、4歳でありながら口が達者で、自分よりも年上の大人を言い負かしたことがあるほどだ。その上、癇癪持ちだ。
「サイクロン、サイクロン、サイクロン!」
アナスタシアはそう言って足を踏み鳴らした。
「・・仕方ないな・・」
ルドルフはため息を付き、アナスタシアとエリザベートの手を引いて、サイクロンの入り口へと並んだ。
「アナスタシア、あたしはいいわ。ローラコースターなんて、乗りたくないもの。」
エリザベートはそう言って、双子の姉を見た。
「駄目よ、エルジィ!コニーランドにいるんだから、最高のスリルを味あわなきゃ!」
「それよりもメリーゴーランドの方がいいわ。」
「メリーゴーランドよりローラコースターの方が面白いわよ!」
「でも・・」
「乗るったら、乗るのっ!」
アナスタシアとエリザベートが言い合っている間、列はルドルフ達の前に並んでいたカップルがサイクロンの最前列の座席に乗り込んだ。
「さぁ、行くわよっ!」
嫌がるエルジィの手を引っ張り、アナスタシアはカップルが座っている後ろの座席に滑り込んだ。
「降ろしてよ、お願いだからっ!」
エリザベートはそう言って泣きじゃくった。
「怖くないよ。すぐに終わるからね。」
ルドルフはそう言ってエリザベートを慰めた。
サイクロンがゆっくりと軋みながら動き始めた。
急勾配の上りをゆっくりと上がっていく。
エリザベートは軋む車体の音が恐ろしくて泣きじゃくっていた。
坂の頂上に達したサイクロンは、一気に加速して降下していった。
エリザベートは恐怖の叫びを上げた。
尻が宙に浮き、まるで空を飛んでいるかのようだった。
恐怖の叫びはやがて歓喜の叫びとなり、エリザベートはいつの間にかサイクロンを楽しんでいた。
「楽しかったでしょ、エルジィ?」
アナスタシアはそう言って双子の妹を見た。
「うん、最高よ。」
エリザベートはそう言って笑った。
「遊園地はやっぱりローラコースターよ。」
ポップコーンを頬張りながら、アナスタシアはそう言って満足そうに笑った。
「お昼食べた後、もう1回乗ろう!」
「1回だけ乗ったからいいじゃないか。」
ルドルフはそう言ってため息を付いた。
「駄目よ、お母様。折角コニーアイランドに来たのよ。」
「そうよ。1日中にサイクロンに乗りたいわ。」
「仕方ないな・・」
あとがき
NY編スタートです。
コニーアイランドのサイクロンを登場させました。
ネットで見つけたページにはコース全体の写真とか、サイクロンのコース写真とかが載ってて、結構怖そうだな・・と思ってしまいました。
ジェットコースターは苦手じゃないんですが、ちょっと怖いですね・・。
2006年3月末に閉鎖された神戸ポートピアランドのBMR-Xっていうジェットコースターに一度乗りましたが、結構迫力ありました。よくテレビなんかで迫力満点のジェットコースター特集とかあると、乗ってみたい気がします。でも乗る前に後込みしちゃいそうです(笑)
沖縄で生まれた双子ちゃん達は4歳になりました。
アナスタシアちゃんは気が強い性格で、エルジィちゃんは物静かな性格です。アナスタシアちゃんはルド様似です。
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Last updated
2011.07.26 17:53:05
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