「疲れた・・」
ルドルフはそう言ってベッドに横たわった。
無理もない。
コニーアイランドで娘達と10回以上サイクロンに乗り、その上コニーアイランドからマンハッタンの自宅までのドライブをし、長時間の渋滞に嵌り、やっとのこと自宅に辿り着いたのだ。
「お休みなさいませ。」
ユリウスはそう言って寝室のドアを閉めた。
「お父様、お母様寝ちゃったの?」
アナスタシアはスナック菓子を食べながらテレビを見ていた。
「うん。アナスタシアとエルジィが無茶させるからだよ?サイクロン10回以上も乗るから・・」
「いいじゃない、楽しかったんだから。」
「ねぇ。」
「お母様は明日大学なのに・・」
ユリウスはそう言ってチラリとルドルフの寝室の方を見た。
「ん・・」
ルドルフはゆっくりと目を開けた。
明日は大学で、英文学のレポートを仕上げなければいけない。
ルドルフは机に置いてあるノートパソコンのスイッチを入れ、フラッシュメモリを差し込んで昨日までやりかけていたレポートを仕上げて保存し、眠った。
朝起きると、リビングから香ばしいコーヒーの匂いがした。
「おはようございます。昨夜はお疲れでしたね。」
ユリウスはそう言ってハムエッグを載せた皿をルドルフの前に置いた。
「レポートは出来た。これから印刷してくる。」
ルドルフはノートパソコンのスイッチを入れ、完成したレポートをプリントアウトして、クリップで纏めてクリアファイルの中に入れた。
「お母様、いつ帰ってくるの?」
「6時には帰るよ。」
ルドルフはそう言って眠い目を擦りながら家を出て大学へと向かった。
ルドルフはコロンビア大学で英文学と心理学を学んでいる。
皇太子だった頃、ルドルフは大学に行きたかったが、周囲はそれを許してくれなかった。
だが今はただのルドルフ=フランツとして学生生活を楽しんでいる。
「ハーイ、ルドルフ。なんだか顔色が冴えないわ。」
キャンパスへと歩いている時、黒髪の美人女子学生がそう言ってルドルフに声をかけた。
「ちょっと寝不足でね。心配してくれてありがとう。」
ルドルフはそう言って女子学生に微笑んで足早に去っていった。
「いつ見てもいい男だわ・・」
リアーナはそう言ってルドルフの後ろ姿を見ながらため息を付いた。
英文学のレポートを提出し、ルドルフは図書館でオイゲンの研究ノートを読んでいた。
彼の傍らには、山のように積まれた本があり、その内容は吸血鬼に関してのものだった。
受胎期のリスクを避ける可能性があるヒントをいくつかの文献から探したが、なしのつぶてだった。
(やはり運命は変えられないのか・・)
ルドルフはため息を付いて本を元の場所に戻し、研究ノートをバッグの中に入れて両腕の間に顔を埋めた。
そういえば昨夜はレポートを仕上げていてほとんど寝ていない。
ちょっとひと休みしようと思い、ルドルフは目を閉じた。
その頃ソロモンはノートパソコンの前でため息を付いた。
「パパ、何見てるの?」
「ママのことを調べてたんだよ。」
「そう・・」
ミハエルの目つきが鋭くなる。
「ママの居場所、わかったんでしょ?」
「ああ・・でもお前には教えない。」
「どうして?」
「お休み。」
ミハエルは不快そうに鼻を鳴らして部屋を出ていった。
(パパは何か隠してる・・絶対に。)
翌日学校に帰ってきたミハエルは、父のパソコンを調べた。
そこにはルドルフが現在NYで双子の娘とユリウスと暮らしていて、コロンビア大学に在学中ということがわかった。
(ママ・・僕を捨てたママ・・)
ミハエルはモニターに映っているルドルフの幸せそうな笑顔を指でなぞった。
自分を捨てた癖に、幸せに毎日を送っているなんて許さない。
(ママを不幸にしてやる・・)
ミハエルはパソコンの電源を切り、リュックサックにノートパソコンと食料品を入れて、ガレージへと向かった。
そこには、ソロモンが誕生日に買ってくれたマウンテンバイクがある。
ミハエルは財布の中にあるクレジットカードと現金を見た。
これならNYまでの旅費は充分足りそうだ。
(待っててね、ママ。ママを絶対に不幸にしてあげるv)
ミハエルはヘルメットを被り、ビバリーヒルズにある邸宅からマウンテンバイクでNYへと出発した。
目的はただひとつ、ルドルフを殺すことだけだ。
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最終更新日
2011年07月26日 17時44分31秒
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