「あ、兄様!」
双子の片割れであるアイリスは、そう叫ぶと遼太郎の方へと駆け寄った。
「アイリス、元気そうだね。」
遼太郎はそう言って、2歳離れた妹の頭を撫でた。
「兄様、もうすぐお誕生日よね? プレゼント何がいいのか、ユナと話しあっていたの。ね、ユナ?」
アイリスは隣に立っている双子の妹を見た。
「うん。リョータロウ兄様は、何が欲しいの?」
「お前達がパーティーに居てくれるだけで嬉しいんだ。プレゼントは何でもいいから手作りのものがいいな。」
「そう、わかったわ。じゃぁ、またね!」
双子の姉妹は声を揃えてそう言うと、パタパタと元気良く廊下を駆けていった。
「賑やかな笑い声が聞こえたかと思ったら、アイリス達に会っていたんだな?」
ドアが開き、ルドルフは遼太郎を見た。
「うん。誕生日プレゼント何がいいかって聞いてきたんだ。父上、アイリスとユナって本当にそっくりだね。」
「双子だから当たり前だろう。さてとリョータロウ、子猫が降りられなくなった木まで案内してくれないか?」
「うん、わかった。」
遼太郎はそう言って、嬉しそうに廊下を走って行った。
「こら、危ないだろう。」
ルドルフは慌てて遼太郎の後を追った。
一方、アイリスと椰娜(ユナ)は、母・瑞姫の部屋を訪ねていた。
「お母様、何してるの?」
瑞姫がレース編みをしている姿を、アイリス達は興味深げに見ていた。
「レース編みよ。お腹の赤ちゃんが履く靴下を編んでるの。」
「ねぇお母様、赤ちゃんいつ出てくるの?」
アイリスは母の膨らんだ下腹を見つめながら言った。
「もうすぐ産まれてくると思うわ。アイリス、あなたお姉ちゃんになるのが嬉しい?」
「うん。ユナもそうよね?」
「わかんない。お母様、赤ちゃんのお世話って大変なの?」
「大変だけど、楽しいわよ。それよりもお兄様達は何処?」
「リョータロウ兄様はお父様とお庭に行ったわ。ヨウお兄様はヴァイオリンのお稽古よ。ねぇお母様、レース編み教えてくれる? リョータロウお兄様のプレゼントを作りたいの。」
「そう。じゃぁ2人とも、こちらにいらっしゃい。お母様が編み方を教えてあげるわ。」
「やったぁ~!」
母の指導の下、アイリスと椰娜はレースのハンカチを編んだ。
「どう、お母様? 上手に出来てる?」
「うん、とても上手に出来てるわよ、2人とも。お兄様、喜んでくれると思うわ。」
瑞姫は娘達の銀髪を撫でると、彼女達は屈託のない笑みを浮かべた。
「アイリス様、ユナ様、ピアノのレッスンの時間ですよ。」
2人を探していた女官が、そう言って瑞姫の部屋に入って来た。
「ピアノのお稽古、したくない~」
「わたしも~」
「アイリス、ユナ、めんどくさがっては駄目よ。」
「だってお母様と遊べないもん。つまんない~」
アイリスがそう言ってごねると、瑞姫は溜息を吐いた。
「あなた達がピアノのお稽古をやってから遊んであげるわ。それでいい?」
「わかった。ユナ、行こう。」
「うん。」
姉妹は女官の後に続いて瑞姫の部屋から出て行った。
「全く、困った子達だこと。」
廊下を駆けていく2人分の足音を聞きながら、瑞姫は苦笑した。
銀髪金眼の姉妹は、その愛らしさ故に“銀髪の天使”とウィーン宮廷で呼ばれていた。
ピアノの稽古が終わり、姉妹は瑞姫の部屋へと向かうと、そこは立ち入り禁止になっていた。
「ねぇ、お母様どうしたの?」
「お母様は今、赤ちゃんを産んでいらっしゃるんですよ。」
女官がそう言って彼女達を見た時、部屋の中から力強い産声が聞こえて来た。
アイリスとユナが部屋に入ると、そこには産まれたばかりの赤ん坊に乳をやっている瑞姫の姿があった。
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