「ユナ、お前に縁談があるんだが・・」
「え、わたしに縁談?」
エルジィと子ども達、兄妹達と共に夕食を囲んでいたユナは、突然の父の言葉に瞠目した。
「ああ。何でも相手はお前が馬場で走っているところに一目惚れしたらしい。どうだ、一度会ってみないか?」
「待って、お父様。わたしはまだ17よ? これから大学進学も控えているし、結婚なんて考えていないし・・何とかお断りできないの?」
ユナの言葉に、ルドルフは低く唸って彼女を見た。
「先方の母親がどうしてもお前に会いたいと言ってきてな。まぁ、会ってみるだけでいい。お前にその気がないのなら、この縁談は白紙に戻す。」
「ありがとう、お父様。それで、相手の方ってどなたなの?」
「相手は、アルティヒ子爵家のアーデルベルト様だ。今度の日曜に、彼が所属するポロチームの大会があるそうだ。」
「そう。」
馬場で少し会っただけなのに自分を気に入るとは、どんな男なのかユナは会いたくなってきた。
「ねぇユナ、ちょっといい?」
ユナが自室で宿題をしていると、エルジィが部屋に入って来た。
「ええ。どうしたの、エルジィ姉様?」
「あなたの縁談のことだけれど、結婚相手は慎重に選びなさいね。わたしのようにはなって欲しくないの。」
「エルジィ姉様・・」
ユナはエルジィの手を握ると、彼女に微笑んだ。
「大丈夫、わたしは結婚相手も自分の人生も、自分で決めるわ。だから心配なさらないで。」
「そう。ユナ、ここだけの話だけど、最近気になる人が居るのよ。」
「気になる人?」
「ええ。同じ職場のペツネックさんって方でね、彼と居ると心が安らぐの。」
「そう・・今度こそ幸せになってね。」
義姉・エルジィの幸せがもうすぐ来る事を予感していたユナは、縁談相手と会う週末を指折り数えて待っていた。
「ねぇルドルフ様、本当にユナとアーデルベルト様を会わせても良いのでしょうか?」
「会う前から人の事をとやかく言うよりも、会ってから言った方が良い。それよりも最近、エルジィがまた良い人に出逢ったみたいだ。」
「そうですか。今度こそ幸せになってくれればいいんですけれど・・」
瑞姫はそう言うと、ルドルフにしなだれかかった。
「ああ。シングルマザーとして必死に働いて4人の子ども達を育てているエルジィの姿を誇りに思っているが、彼女の感性や価値観に合う人と出逢うことを願っていたんだよ。娘の恋愛に口を出せる程、わたしは立派な人間ではないからね。」
「まぁ、ルドルフ様ったら。」
あっという間にユナと縁談相手・アーデルベルトと会う週末が来た。
彼が出場するポロ大会はウィーン郊外で開かれ、そこには上流階級の令嬢達が将来の結婚相手を見極める為に来ていた。
そこで一際目立っていたのは、母・瑞姫譲りの美しい肢体をロイヤルブルーのワンピースに身を包んだユナの姿だった。
その隣には、シックなワンピースを纏った瑞姫が立っていた。
「ねぇお母様、アーデルベルト様ってどんな方かしら?」
「さぁね。」
大会終了後、2人はアーデルベルトと彼の母親と会った。
アーデルベルトは金髪紫眼の好青年で、目が合った瞬間、ユナはこの人と絶対に結婚すると思った。
「ユナです、初めまして。」
「アーデルベルトです。皇女様もポロをなさるんですか?」
「そんな堅苦しい呼び方をなさらないで、ただのユナでいいわ。」
「そうですか。ではユナ様、これから食事に行きませんか?」
「ええ、喜んで。」
ユナはそう言ってアーデルベルトに微笑んだ。
2人はカフェでランチを取りながら、互いの趣味や家族の話をした。
「じゃぁ、また。」
「ええ。」
ユナはアーデルベルトにまた会いたいと思うようになった。
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