「姫様、しっかりしてください、姫様!」
胸に銃弾を受けた美津を、四郎は抱き留めた。
「姫様、わたしがわかりますか、姫様!」
四郎は美津の頬を叩いたが、何の反応もなかった。
「お前は余程鬼姫様のことが好きなのね。」
衣擦れの音を立てながら、凛はそう言って想い人を見つめた。
「貴様、姫様に何をした!?」
「あら、わたしは何もしてないわよ?わたしは鬼姫様が邪魔だから人を雇って彼女を撃って貰っただけ。でもまだ死んではいないようね。」
凛は四郎の腕の中で意識を失っている美津を見て、舌打ちした。
「一体何が望みだ!?姫様を亡き者にしようとして・・」
「全く、お前は鈍いのねぇ。」
凛は呆れたように肩を少し竦め、溜息を吐いた。
「お前を手に入れる為に決まっているじゃないの。」
「わたしの心は姫様のものだ。わたしは姫様の為ならば何でもする!」
「主人に身も心も捧げるなんて、まるで忠犬ね。素敵な主従関係だわ。あなたみたいな堅物に色恋のことを話しても無駄のようね。」
凛は口端を歪めて馬鹿にしたような笑みを浮かべながら四郎を見た。
「あなたは、さっき鬼姫様の為なら何でもする、って言ったわよね?その言葉には嘘はないのね?」
「わたしは嘘が大嫌いだ。」
「堅物な上に糞真面目なのね、お前は。まぁ、そっちの方がいいけれど。」
彼女の黄金色の瞳が、闇の中で異様な光を放った。
「お前には少し、協力して貰うわ。」
凛は想い人の男に微笑を浮かべながら言った。
美津は暗い海底に今まさに沈もうとしていた。
(四郎・・何処にいるの?)
呼吸を必死でしながら美津は周囲を見渡したが、そこには誰もいない。
美津が吐いた息が泡となって海上へと昇ってゆくだけだ。
(みんな、何処にいるの?)
「それにしても姫様はお転婆が過ぎて困るわ。」
突然声がして、美津は再び周囲を見渡した。
声は泡の中から聞こえていた。
そこには、数人の侍女達と自分の乳母がいた。
「そうでしょうとも。いい年頃なのに、嫁の貰い手もないんだから。」
「けど姫様はお花やお琴の腕はいいわ。」
「でもあんな性格じゃ・・」
美津はそれ以上聞いていられなくて、目を閉じた。
彼女が生死の境を漂っている頃、四郎は凛を見た。
「わたしに何を望む?」
「わたし達に協力して欲しいの。」
「“わたし達”?」
「ええ。わたしと、わたしの父とともに同じ主義を貫く者達に。言っている意味、わかるわよね?あなたは賢いんだから。」
そう言って凛はまた口端を上げて笑った。
「断る。」
「じゃああなたの大事な鬼姫様がどうなってもいいのね?」
「この卑怯者が!」
「何とでも言えばいいわ。鬼姫様の命はわたしが握っているのよ。それを忘れないことね。」
黄金色の瞳を煌めかせ、凛は四郎を見た。
凛に協力しないと、美津が死んでしまう。
考える時間はない。
「わかった・・協力しよう。」
「ありがとう、あなたならそう言うと思ったわv」
凛は四郎に右手を差し出した。
四郎は力なくその手を握った。
(これで計画通りだわ・・後はお父様がどう動いてくれるか、楽しみだわv)
「忠実な従者を自分の支配下に置くとは・・なかなかの策士だな、あの娘・・」
今までの一部始終を木陰に隠れて見ていた鬼神は、そう言って低い声で笑った。
「あの犬を娘が始末すれば、姫はわしのものになる。」
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.04.01 22:12:34
コメント(0)
|
コメントを書く
[連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~] カテゴリの最新記事
もっと見る