1945(昭和20)年、8月。
日本軍の真珠湾奇襲から勃発した太平洋戦争は、広島・長崎の原子爆弾投下によるポツダム宣言受諾により、敗戦した。
だが空襲によって焼かれた東京・大阪などの大都市は焼け野原が広がり、もう米軍機の空爆に怯える日々がなくなったというものの、食糧や衣料品、医薬品などが不足し、先の見えない暗いトンネルの中を、四郎達をはじめとする国民は歩いていた。
四郎は闇市で得たミシンで仕立ての仕事を始め、何とか生計を立てていたが生活は苦しかった。
「四郎、ただいま。」
「お帰り。」
粗末なバラック建ての扉が開き、エーリッヒが疲労を滲ませながら帰宅した。
「今日も駄目だったか?」
「ああ。みんな飢えてるからな。やっぱり早めに出ないと食い物はなかなか手に入らないよ。」
「そうか・・」
四郎はミシンを動かす手を止めると、溜息を吐いた。
「ここんところ、商売上がったりだよ。闇市を警官が巡回しているからなぁ。」
「まぁ、仕方ないだろうよ。さてと、今日もすいとんにするか。」
「わかった。」
四郎は台所とはいえない粗末な炊き場へと向かうと、僅かながらに手に入れたさつまいもをふかし始めた。
その時、誰かが扉を叩く音が聞こえた。
「どちら様ですか?」
四郎が外から声をかけたが、返事は返ってこなかった。
泥棒だろうかと訝しがりながら彼が扉を開けて外へと出ると、そこには美津が立っていた。
白い頬は何故か黒く煤けており、腰下までの長さがあった黒髪は肩の辺りで切り揃えられていた。
「姫様・・姫様なのですか?」
四郎がそう美津に問いかけると、彼女は静かに頷いた。
「わたしよ、四郎・・帰るのが遅くてごめんね。」
「姫様!」
堪らず四郎は、美津を抱き締めた。
「ご無事でよかった、姫様。」
「あなたもね。これでずっと一緒に暮らせるわ・・」
「おい、どうしたんだ・・」
外の異変に気づいたエーリッヒがそう言ってバラックから出てくると、美津の姿を見て絶句した。
「ただいま、エーリッヒ。」
「お帰りなさい、姫様・・」
何処までも澄んだ青空の下、四郎とエーリッヒは漸く美津との再会を果たした。
―第3部・完―
あとがき
少しとびとびな展開になってしまいました。
第4部は少し時間を置いて書きます。
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Last updated
2012.10.12 19:59:04
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