(あら、あの子フラれちゃったのね。可哀想に。)
茂みの陰からクリストフとステファニーの様子を見ていたナターリアは、うつむくクリストフを見ながらそう思った。
(あの坊やはいいとして、あの小娘と話をつけなくちゃね。)
ナターリアは中庭を早足で横切り、邸の中へと入っていった。
ステファニーは、クリストフを振ったことを申し訳ないと思った。
彼の、自分に対する想いは気づいていた。
舞踏会でエドガーと話しているときに感じた、半ば諦めが含まれたような、自分に対する憧れの視線。
だが自分は、エドガーを愛している。
舞踏会でアレクセイとエドガーが何か言っていたことと、舞踏会でのアレクセイの態度が、急に気になった。
何故彼は、急にあんな行動を取ったのだろう?
ステファニーがそう思いながら本を読んでいると、ドアがノックされた。
「ステファニー様、お客様でございます。」
「そう、今行くわ。」
ステファニーが客間に入ると、そこには菫色のドレスを着た美女がソファに座っていた。
美女は、ステファニーを見るなりソファから立ち上がり、ステファニーの頬を打った。
「あなたね、婚約者がいながらアレクセイ様をたぶらかしたイギリスの女狐は。」
「何をおっしゃているのか、よくわかりませんわ。」
ステファニーはそう言って、美女を見た。
「とぼけたって無駄よ! あなた、アレクセイ様を狙っているのでしょう!? アレクセイ様はね、わたくしの夫になる人なの! あなたには負けなくてよ!」
ナターリアは呆然としているステファニーに背を向け、客間を出ていった。
(何なんだ、あのオバサン?)
「どうしたの、さっき怒鳴り声が聞こえたけど。」
ナターシャがそう言って客間に入ってきた。
「なんでもありませんわ。あの方、ご存じですか?」
「ああ、知っているわ。あの方は、ナターリア=ボロンゾフ様。いままで男運がなくて、結婚は一度したけれども、それもダメだったみたいで・・アレクセイ様に一目惚れして、彼を狙っているわ。」
「どうして私の所に? あの方に叩かれる覚えはしたことないのに。」
「それはナターリア様が誤解なさってるんじゃなくて? あなたが舞踏会でアレクセイ様と踊っているから、それを見てムカッと来たのね。」
ナターシャはそう言って笑いながら、階段を上っていった。
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