「こっちよ。」
ルドルフが亮子とともに廃病院の奥へと進んでゆくと、呻き声が徐々に近づいて来た。
「ユリウスは何処に居る?」
「それは見れば解るわ。」
亮子はヒールの音を鳴らしながら、手術室のドアを開けた。
そこには手術台に1人の男が横たわっており、彼は全身に電極のようなものを繋げられ、その刺激によって絶えず痙攣していた。
「あれは何だ?」
「ああ、あれはドクターの実験よ。でもあいつ、もうくたばったみたい。」
亮子がそう言って男の方へと近寄ると、彼はじろりと亮子を睨んだ。
「あんたの奥さんと子供は、向こうで処置を受けているわ。」
「妻に・・手を出すな!」
「あんたも身勝手な男よねぇ。奥さんにあたしとの不倫のことでこってりと絞られたっていうのに、あたしがすぐに甘い声を出すとほいほいとここに来て。こんな目に遭うのは自業自得なのよ。」
亮子はそう言うと、手術台の横にあるスイッチを右へ捻った。
男は激しく痙攣して息絶えた。
「ユリウスの所へ案内しろ。」
「わかったわよ。」
亮子は面倒くさそうに髪を弄りながら手術室から出て行った。
彼女が次に向かったのは、手術室から少し離れた病室だった。
ドアの近くまで来ると、女性と子どもが泣き叫ぶ声が聞こえた。
ルドルフがスライドドアを少し開けて中の様子を見ると、手術室に居た男と同じように、彼らも同じ拷問をされていた。
「さっさと行くわよ。」
彼らを救おうとしていたルドルフが病室の中へと入ろうとした時、亮子が彼の腕に爪を立てて彼を自分の方へと引き寄せた。
「あんたは恋人を救いにここに来たんでしょう?早くしないとあんたの恋人は死ぬわよ。」
亮子に腕を引っ張られ、ルドルフは“ドクター”が待つ部屋へと入った。
「ドクター、連れて来ましたよ。」
「ほう。ご苦労さま、君の役目はこれで終わりです。」
「ドクター、何言って・・」
亮子がそう言って白衣の男を見た時、彼女の額に何かが突き刺さり、彼女はあおむけに倒れた。
「君みたいなおしゃべりな女、わたしは大嫌いなんだよ。君は口が軽いだろうから、またブログにでもこの事を書くだろうからねぇ。」
白衣の男は拳銃を下ろすと、ルドルフを見た。
「君が、闇の皇子だね?」
「貴様、何者だ!」
「初めまして、わたしはドクター。君の恋人は今、特別な手術を受けようとしているところなんだ。」
「特別な手術だと?」
ルドルフが白衣の男を睨みつけていると、彼の背後にあるドアの向こうからユリウスの叫び声が聞こえた。
「ユリウス!」
「おっと、邪魔をしてもらっては困るよ。生きたまま心臓を取り出そうとしているのに。」
白衣の男がドアを開けようとするルドルフを制した。
「ユリウスに何をするつもりだ!?」
「彼の心臓をある心臓病患者に移植する。彼はこの国を支えるお方だ。君の恋人の心臓は他の誰のものよりも強靭で衰えることがない。」
「ふざけるな!」
ルドルフは男を突き飛ばし、ドアを開けて部屋の中に入ると、ユリウスの心臓を今まさに医師達が取り出そうとしていた。
「ユリウスに手を出すな!」
ルドルフは怒りの唸り声を上げ、サーベルで医師達を薙ぎ払った。
「ルドルフ様・・」
「ユリウス、早くここから脱出するぞ!」
ルドルフは手術台に縛りつけられたユリウスの拘束具をサーベルで器用に外し、手術室から出て行った。
あと少しで出口というところで、ユリウスが急に胸を押さえて蹲った。
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