「どうして僕が君が警官である事を知っているかって?君が日本にいた頃密かに君のことを観察していたからね。」
ミハエルは驚愕の表情を浮かべている聖良に向かってそう言うと口端を上げて笑った。
「君は僕と一度会った事があるのに、全く気付かなかったね。」
「もしかして、あの時の・・」
聖良の脳裏に、マンションでぶつかった男の姿が浮かんだ。
「あなたが、俺の職場に爆弾を届けた犯人?」
「それは違うな。まぁ、あの脅迫メモを寄越したのは僕だけど。爆弾はあのテロリストが用意したものさ。」
ミハエルは聖良の方へと一歩ずつ近づきながら淡々とした口調で言った。
「俺を狼に襲わせたのもお前だな?一体どうしてそんな酷い事を・・」
「君が憎いからに決まっているだろう?だって君の所為で僕は一生日陰の身だからね。」
ミカエルは冷たく光る蒼い瞳で聖良を睨みつけながら、舌打ちした。
「僕は君によく似ているだろう?まるで鏡に映したかのように。何故だか知ってる?」
聖良は静かに首を横に振った。
「まぁ、その事はいずれ話す機会があると思うから、今ここでは話さないよ。これから僕は君を憎み続けるつもりだからね。」
ミカエルは聖良に背を向けて、歩き始めた。
「何なんだ、あいつ・・」
意味深長な言葉を投げつけて自分から去っていくミカエルの背中を見つめながら、聖良はそう言って溜息を吐いた。
(俺を付け回したり、憎んだりする理由は何なんだろう?ストーカーで粘着質な性格なのかな?でも俺、あいつに何かしたかな?)
ミカエルに憎まれる理由を考えながら大広間へと戻ると、隅でロバートとシャーロックが何か熱心に話しこんでいる。
(何話してんだろ?)
好奇心に駆られた聖良は、そっと2人の方へと近づいて行った。
「・・だから、諦めろって、シャーロック。皇太子様はお前の事を・・」
「僕は真剣なんだ、ロバート。この想いは誰にも止められないよ。」
「大火傷する前に諦めた方がいいぜ。」
(大火傷?諦める?何話してんのかさっぱり分からねぇ・・)
聖良は2人の元をそっと離れた。
「セーラ様、ご無事だったんですね。」
リヒャルトは聖良の姿を見ると、そう言ってほっと安堵の溜息を吐いた。
「無事も何も・・フリーゼって人からは何も情報引き出せなかったよ。あと、ミカエルって奴、俺のストーカーで影武者だった。俺が日本にいる間、色々と俺の事を観察していたって。」
「ミカエル様は、他に何とおっしゃってましたか?」
「俺の事憎んでいるって言ってたけど・・俺、あいつに何か酷い事した?」
「もしかすると、それは・・」
聖良の言葉を聞いた途端、リヒャルトの顔が曇った。
「何か知ってるの?」
「いいえ・・それよりもセーラ様、もう用事は済みましたから、お暇いたしましょう。」
「うん。」
ドレスの裾を摘みながら、大広間を出ようとした聖良は誰かに腕を掴まれた。
「あなた、少しお話ししたい事があるんだけれど、よろしいかしら?」
振り向くと、そこにはあの籠城事件で何かと自分にモーションをかけてきた松久麗華が立っていた。
(何でこんなところに彼女が!?日本に居るんじゃなかったのかよ!?)
「何かしら?」
「あなた、セーラ皇太子様とはお知り合いなの?」
「い、いいえ。わたくし他に用事を思い出したわ、それでは御機嫌よう。」
麗華の手を振り払い、聖良はそそくさと彼女の元から去って行った。
「いかがなさいましたか、セーラ様?」
「ちょっと会いたくない人に会った。」
聖良はそう言って顔を扇子で扇いだ。
(もう彼女とは関わり合いになりたくないな・・)
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