「土方先生、こちらにいらしたんですね。」
缶ビール片手に歳三と香帆の元へと駆け寄ってきた幸助の顔は、ほんのりと鮭の所為で赤くなっていた。
「そちらの方は?」
「俺の幼馴染の、香帆だ。香帆、俺の同僚の真田幸助だ。」
「はじめまして。」
「はじめまして・・」
香帆がそう言って幸助に挨拶すると、彼はじっと上から下まで彼女を舐めまわすように見た。
「香帆さん、っていいましたっけ? ご結婚はされているんですか?」
「ええ。主人と2人の子どもがおります。真田さんは?」
「僕はまだ結婚とかは考えたことがなくて・・土方先生の下で色々と勉強したいことも沢山ありますし。」
「ああ、そうだな。」
「香帆さん、勇ちゃんがトイレに行きたいって。」
香がそう言ってぐずる勇太郎の手をひいて歳三と香帆の方へと駆け寄った時、彼らは若い医師と談笑していた。
「ママ、トイレ!」
「勇ちゃん、来年小学校にあがるのに、ママと一緒にトイレに行くのはやめなさい。」
「トイレ~!」
「もう、仕方ないわね。お話の最中すいません。」
香帆は息子の手をひき、歳三達から離れた。
「もしかして、土方先生の息子さん?」
若い医師がそう言ってちらりと香を見た。
「初めまして、土方香です。」
「どうも、お父さんの部下の、真田幸助です。」
「どうも。」
「じゃぁ先生、そろそろ行きますね。色々と話さないといけない人が向こうにいるんで。」
「ああ・・」
「じゃぁ香君、行こうか?」
幸助はそう言って香の手を掴んだ。
「どうして僕が一緒に?」
「君に会わせたい人が居るんだ。来てくれ。」
「待って下さい、誰なんですかそれ?」
香の質問に幸助は一切答えずに、パーティー会場の片隅に停まってある黒塗りのリムジンへと向かった。
「連れてきましたよ。」
「ありがとう。」
幸助がそう言った時、リムジンの窓が開き、金髪蒼眼の女性が姿を現した。
「香、大きくなって!」
リムジンから降りた女性は、そう叫ぶと香に抱きついた。
(どうしてこの人、僕の名前を・・)
「あの、あなた誰なんですか?」
突然見ず知らずの女性に抱きつかれた香がそう言って女性を見ると、彼女は笑った。
「わたくしの事を憶えていないのは当たり前よね。香、わたくしはあなたのお母様よ。」
「え・・?」
女性の言葉を聞いた香は、一瞬周囲の音が聞こえなくなったかのような気がした。
確か母は香が小さい頃交通事故で死んだのではなかったのか。
「本当に、あなたは僕の母さんなんですか?」
「そうよ。やっと会えたわね、香。」
(嘘だろ・・どうして父さんは・・)
「香!」
背後から鋭い声が聞こえて香が振り向くと、そこには今までに見た事がないほど険しい表情を浮かべた歳三が立っていた。
「千尋、お前香を何処に連れて行くつもりだ!」
「決まってるじゃない、わたくしがこの子を引き取るのよ。」
「子どもを捨てた癖に、まだ寝言を言ってやがるのか!」
歳三はそう言うと、女性と香との間に割り込み、香の手を掴んで自分の方へと引き寄せた。
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最終更新日
2012.04.06 09:04:55
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