「口で慰めてくれたら、何もかも話すよ?」
「俺をからかうと痛い目に遭うぞ。」
ウォルフが黄金色の瞳でじろりとラリーを睨みつけると、彼は笑った。
「冗談だよ、冗談。」
ラリーは化粧台の上に置いてある煙草の箱とライターを掴むと、煙草を一本咥えて火をつけた。
「あんたの爺さん・・マックスって言ったっけ?襲われる数週間前に、この店に来たよ。」
「本当ですか?」
マックスはこんな退廃的なこのクラブを忌み嫌い、買い物に行くときも店の前を通るのを嫌がっていた。
「うん。人を探してるってさぁ。あんたの失踪した母さんの親友を探しにね。」
「親友って?」
「フロアで会ったでしょう?赤いマニュキュアつけていた女さ。」
「今はまだ居る?」
「さぁね。見てきたら?」
アレックスがフロアへと戻ると、店に入ったときに声を掛けてきた女がまだ居た。
「あの、すいません。もしかしてあなた、母の親友ですか?」
「あんた・・もしかしてメグの息子なの?」
「はい。」
「うっわぁ、驚いた!あんなにちっちゃな坊やだったのに、すっかり大きくなっちまって!」
そう言って母の親友・ジャネットはアレックスに抱きついた。
「ああ、マックスさんだったら数週間前に店に来たよ。メグを探してるってさ。でも、あたしも離婚して以来全然会ってないんだよ。」
「そうですか・・」
アレックスの母・メグは夫と離婚した後、実家へと戻りマックスにアレックスを託すと、突然姿を消した。
「あの赤毛の雌狐がメグの家庭を壊して、何の罰も受けないなんておかしいよ。」
「そうですね。」
暫くアレックスがジャネットと話していると、奥からウォルフとラリーが出てきた。
ラリーは煌びやかなブルーのドレスに、セーブルのコートを羽織っていた。
いつの間にか着替えたのか、ウォルフはクールなバイクスーツからブラックタイという格好だった。
「どうしたの、それ?」
「パーティーに招かれたんだよ、タンバレイン家の。君もおいで。」
「でも、この格好じゃぁ・・」
「大丈夫、バレないように君を変身させるからね。」
数時間後、アレックスとラリー達とともに黒塗りのリムジンから降り立ち、タンバレイン家の正門前へと立った。
“バレナイように君を変身させる”というラリーの言葉通り、一流の美容師とスタイリストによって、アレックスは何処からどう見ても良家の令嬢にしか見えないような可憐なドレスを纏い、緊張で萎えた足を励ましながらラリー達とともにパーティー会場へと向かった。
「ハ~イ!」
「パーティーへようこそ。」
ラリーが受付の者に招待状を渡すと、彼は恭しくラリー達を会場へと通した。
パーティー会場は熱気に包まれ、ディーンや彼のガールフレンド・アンジェラとチアリーダー達がダンスを楽しんでいた。
タンバレイン家はこの町の有力者で名家だということは知っていたが、森林公園のような広大な庭園を目の当たりにして、アレックスは馬鹿みたいに口をあけて突っ立っていた。
アレックスは空いている椅子に腰を下ろそうとすると、運悪くディーンとぶつかり、彼が持っていたパンチをアレックスはまともに食らってしまった。
「何処見て歩いてんだよ、このブス!」
学校では何かと自分に気さくに声を掛けてくる姿ではなく、今目の前に居るディーンは傲慢でムカつくクソ野郎そのものであった。
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